憲法学者の百地章氏 報道によれば、政府は皇族の減少に伴う公務の負担軽減策として結婚後の皇族女子を特別職の国家公務員と位置づけ、皇室活動を継続してもらう制度を創設する検討に入った。その際、皇族女子には「皇女」という新たな呼称を贈る案が有力視されているという。(読売11月24日付、共同通信も同旨を同日配信)
≪野田内閣検討踏まえた皇女案≫
これに対しては「やや思いつきの感じがする」「強制にならないか」「天皇の娘を指す『皇女』をそれ以外の女性に使っていいのか」「皇女案では男系による皇位の安定的継承には繋(つな)がらない」などといった様々な疑問や批判がある。これらの点について、筆者なりの見解を述べたいと思う。
まず「思い付きでは」との批判だが、この皇女案は平成24年、野田佳彦内閣によって取りまとめられた案の一つで、「女性宮家」案に替わるものである。その意味で突然出てきたものではない。
もう一つはなぜ今、皇女案なのかということだろうが、29年6月に天皇陛下の「退位特例法」が制定された際の国会の「付帯決議」には、この法律の施行後速やかに政府は「安定的な皇位継承を確保するための諸課題」と「女性宮家の創設等」の2点について検討し国会に報告することとあった。
それ故、今回、2点目の宿題に対する答えが示されたと考えれば、自然なことと考えられよう。
ちなみに「女性皇族の婚姻による皇族数の減少と皇室の御活動の維持」を課題とした野田内閣の有識者ヒアリングでは筆者も意見を述べたが、政府が取りまとめたのは3案であった。そのうち2案は女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持することを可能とするいわゆる「女性宮家」案で、第1は、民間人の男性配偶者や子にも皇族の身分を付与する案、第2は、配偶者や子には皇族の身分を付与しないとする案であった。これに対して、第3案は、女性皇族に皇籍離脱後も皇室の御活動を支援して戴(いただ)くことを可能とする案で、筆者は原則的にこの案に賛成してきた。
≪皇女称号は「陛下の御沙汰」≫
第3案について、野田内閣のまとめた「論点整理(概要)」は次のようにいう。
「女性皇族は、皇族の身分を離れるが、国家公務員として公的な立場を保持し、皇室活動を支援していただく(その際、御沙汰により称号を賜ることは考えられないことではない)」
考えるに、この第3案は元女性皇族のみに必要に応じて国家公務員の立場で皇室活動を支援して戴こうというもので、あくまで皇室のご意向に基づくものである。内閣が勝手に任命したりするものではなかろう。だからこそ「御沙汰により、称号を賜ることもありうる」とされたはずだ。とすれば、内閣による「任命の強制」など考えられない。
また、この皇女案は、皇籍を離脱し民間人となられた元女性皇族に特別の身分を与えようとするものではない。もし特別の身分を与えれば、「華族その他の貴族の制度は、これを認めない」とした憲法14条2項に違反する。
さらに「皇女」の称号は、あくまで皇室のご活動、例えば外国から元首などを迎えて行われる宮中晩餐(ばんさん)会などにご出席して戴く際に皇女(プリンセス)の称号を用いて戴こうというものと思われる。
確かに「皇女」は天皇の内親王(愛子さまや清子さま)を指し、それ以外の女性皇族は含まれない。そこで皇女以外の内親王や女王には例えば「王女」という称号も考えられよう(『新編大言海』『広辞苑』による)。もちろんどなたにご公務の支援をお願いするかは陛下のご判断によるはずだ。
≪男系による安定継承は可能だ≫
最後に、男系による皇位の安定的な継承を確保する道は、本欄で繰り返し述べてきたように、旧宮家の男系男子孫のうち悠仁親王と同じ若い世代の中からふさわしい方を何人か皇族としてお迎えし将来宮家を名乗って戴くしかない。
女系容認論者たちは「旧宮家隠し」を行い、現在の皇室だけを視野に、このままでは男系を維持することはできないと決めつけている。これは事情のよく分からない国民を惑わすだけだ。
また、歴代天皇の約半数は皇后以外のいわゆる「側室」からお生まれになっていることを理由に、側室の認められない現在では男系維持は困難と決めつけている。
しかし、この問題は医学の進歩によって解決可能である。というのは、歴代天皇の約半数は皇后からのご誕生であり、もし今日のように医学が進歩していれば夭逝(ようせい)や死産も防げていたであろうからである。そうなれば嫡出の立派な皇族が多数誕生されていたことであろうし、今後も男系の嫡男子による皇位継承は可能なはずだ。
それを支えるのが、養子制度の採用である。明治維新以前は普通に行われていた皇族の養子制度を復活すれば、いくつかの宮家を維持することは可能であり、いざというときに備えることができる。政府は速やかに、付帯決議の第一の宿題に答えて戴きたいと思う。(ももち あきら)