中国が民生分野にとどまらず、宇宙技術を軍事に
利用していることが明白になっているためだ。バイ
デン政権は、昨年10月の国家安全保障戦略(NS
S)に「宇宙における世界のリーダーの地位を維持
する」と明記するなど、宇宙を米中覇権争いの主戦
場と位置づけている。
米国は、日本と開く11日の外務・防衛担当閣僚
による日米安全保障協議委員会(2プラス2)や1
3日の首脳会談で、宇宙を巡る防衛や米国が主導す
る国際月探査アルテミス計画での協力を協議する。
日本など同盟国と連携し中国の覇権確立を阻止した
い考えだ。
米「宇宙は主戦場」と中国に危機感 露は不透明
中国の宇宙ステーション「天宮」で、ドッキングに成功した有人宇宙船「神舟15号」の飛行士を迎え入れる6月から「天宮」に滞在する飛行士ら(新華社=共同)
【ワシントン=坂本一之】バイデン米政権は、中国が独自の宇宙ステーション「天宮」を完成させるなど宇宙技術を急速に向上させていることに危機感を強めている。
中国が民生分野にとどまらず、宇宙技術を軍事に利用していることが明白になっているためだ。バイデン政権は、昨年10月の国家安全保障戦略(NSS)に「宇宙における世界のリーダーの地位を維持する」と明記するなど、宇宙を米中覇権争いの主戦場と位置づけている。
米国は、日本と開く11日の外務・防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(2プラス2)や13日の首脳会談で、宇宙を巡る防衛や米国が主導する国際月探査アルテミス計画での協力を協議する。日本など同盟国と連携し中国の覇権確立を阻止したい考えだ。
冷戦終結後の米国の宇宙政策には変遷がある。2006年にブッシュ(子)政権が打ち出した宇宙政策は、安全保障面での活用に重点を置き、米国のリーダーシップの強化を掲げた。米国の宇宙活動を制限する国際的な取り決めに反対する姿勢を示し、米国の優位性を高める戦略だった。
これに対し、次のオバマ政権は10年、産業基盤の強化や国際協力の拡大を重視する政策に転換した。米国の宇宙活動に関し、国際法による秩序を重視する姿勢を打ち出した。
当時は中国が日本を抜いて米国に次ぐ世界2位の経済大国となったころだが、中国の技術力や軍事力への警戒感は低く、民主主義陣営を脅かす存在になるとの危機感も薄かった。結果的に中国の動きを見誤り、猛追を許す形となった。
中国が月面裏側への軟着陸を成功させた19年、厳しい対中姿勢で知られたトランプ政権(当時)は「米国人宇宙飛行士を5年以内に月に送る」などとするアルテミス計画の詳細を発表した。バイデン政権も同計画を継承しており、中国引き離しを加速させる考えだ。
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ウクライナ侵略で米欧との関係を決定的に悪化させたロシアは、国際宇宙ステーション(ISS)からの離脱をちらつかせる一方、中国の宇宙事業に参画する道を探っている。しかし、中国は独自ステーション「天宮」にロシアを関与させることに積極的でないとみられ、具体的な道筋は見えてこない。20世紀の宇宙開発競争を牽引(けんいん)したロシアの行方が注視されている。
国際宇宙ステーション(NASA提供)
昨年2月のウクライナ侵攻後、露国営宇宙企業ロスコスモスのロゴジン社長(当時)は「ISSからの離脱方針は決定済みだ」と強調。「ISSの軌道変更は(接続された)露補給船によって行われている」とし、ロシアが離脱すれば「ISS落下」の可能性もあるなどと恫喝(どうかつ)的な発言を繰り返した。
米欧は宇宙分野を含む精密機器を対象に対露制裁を発動しており、制裁を解除させるための取引材料としてISS問題を利用する思惑が透けてみえる。
ロシアは侵攻後、「天宮」に中露両国で共同のモジュール(構成体)を建設する案も持ち出し、中国と協議したもようだ。だが、中国側は情報共有を嫌ってか消極的だとされ、露宇宙船を天宮に接続することも技術的に難しいと報じられている。ロスコスモスは12月、28年までISSに残留する方向で露政府と調整に入った。
米宇宙企業スペースXがISSへの有人飛行を成功させるなどしており、この分野でのロシアの地位は相対的に低下している。