習政権が、米中の異なる点「自由と民主」「法の支配」「人権」という価値観を受け入れ、行動を変える意思がない限り、もう妥協も譲歩もしない-という米国の決意がうかがえる。
対照的に、米台関係は「国と国」の関係へと向かっている。
李元総統の弔問外交に乗じて、アレックス・アザー米厚生長官は8月に台湾を訪問し、米国務省のキース・クラック国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)は19日、台北郊外で開催された告別式に出席した。
クラック氏は告別式に先立つ17日、米台自由貿易協定(FTA)の交渉に関する「米国と台湾のハイレベル経済・ビジネス対話」を主催した。台湾の蔡英文総統は18日、台湾総統府で開いた歓迎夕食会で、「台湾は重要な一歩を踏み出す決意を固めた」と述べた。
米国・台湾「国交樹立」へ現実味! “親中”米大使が突然の退任で…米大統領選前に「爆弾発言」か 河添恵子氏が緊急寄稿 激突!米大統領選
米中対立の激化が止まらない。ドナルド・トランプ米大統領と、中国の習近平国家主席は22日、国連総会のビデオ方式の一般討論演説で、新型コロナウイルス対策などをめぐり、激しい批判合戦を展開した。
米国は先週初め、習氏の「旧友」とされるテリー・ブランスタッド駐中米国大使を10月初めに退任させると発表。中国は、台湾の李登輝元総統の告別式に合わせて台湾海峡付近で軍事演習を展開した。「国と国」の関係に近づく米国と台湾。
トランプ氏の再選が注目される11月の米大統領選直前、ブランスタッド大使は「爆弾発言」を炸裂(さくれつ)させるのか。「米中激突の深層」をウオッチしてきた、ノンフィクション作家、河添恵子氏の緊急寄稿第23弾-。
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「ブランスタッド大使の突然の退任は、米中関係の底が抜けた証拠だ」「米国と中国のカップリング政策が、確実に死んだ兆候の1つ」
在中国米大使館は14日、「トランプ大統領とブランスタッド大使の電話会談で『退任の決定』を確認した」との声明を発表した。識者からは、このような声が次々と漏れてきた。
米国務省高官は匿名を条件に、国営ラジオ放送「ボイス・オブ・アメリカ(VOA)」に、「中国政府は多くの点で道をふさいだ」「対中外交は事実上すでに制限が多く、
大使が現地にいるかいないかは基本的に問題ではなかった」「ニクソン政権以来、中国が採用してきた『求同存異(=双方の共通点を追求し、異なる点は棚上げする)』政策を打破する必要がある」と述べた。
別の高官は「米中がデカップリング(=分離、切り離し)へと向かっているかは、中国が両国間の制度的・イデオロギー的な相違に立ち向かえるかどうかが鍵であり、米国はもはや利益のために価値を犠牲にはしない」と語った。
中国が新型コロナウイルスの世界的大流行(パンデミック)や、知的財産の収奪、ウイグルや香港での人権侵害を引き起こしながら、軍事的覇権を強めていることへの米国の怒りは、「大使引き上げ」という次元に発展しつつある。
マイク・ポンペオ米国務長官は、ブランスタッド大使を「米中関係のバランスを取り、結果を重視し、対等、公平性に一層の注意を払った。
これはアジア太平洋地域における米国の外交政策に、今後数十年の永続的かつ肯定的な影響を与える」と、自身のツイッターでねぎらったうえで、中国共産党政府を次のように非難した。
「中共はプロパガンダ(宣伝)機関の偽善者であり、『思想の自由』を恐れた」
確かに、中国の崔天凱駐米大使は、米国のニュース番組や出版物に定期的に登場して自国の宣伝を続けているが、ブランスタッド大使が中国のSNS(微博やWeChatなど)に投稿した、「無修正の議論と無制限の相互作用を通じて2国間関係を構築していく」といった文章は、中共が検閲して削除された。
これでは、対等な二国間関係は築けない。
米中関係の専門家である、アジア協会米中関係センターのオービル・シェル所長は「米中関係の悪化の、主な責任は習主席にある。
過去8人の米大統領に支持されてきたカップリング政策は、2国間関係を安定させてきたが、南シナ海や台湾海峡、香港、新疆ウイグル自治区、東シナ海における中共軍の積極的な行動が本質的に窒息させた」「習主席は『中国を大きな危険にさらした支配者』として歴史に残る可能性がある」と、前出のVOAに語った。
習政権が、米中の異なる点「自由と民主」「法の支配」「人権」という価値観を受け入れ、行動を変える意思がない限り、もう妥協も譲歩もしない-という米国の決意がうかがえる。
対照的に、米台関係は「国と国」の関係へと向かっている。
李元総統の弔問外交に乗じて、アレックス・アザー米厚生長官は8月に台湾を訪問し、米国務省のキース・クラック国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)は19日、台北郊外で開催された告別式に出席した。
クラック氏は告別式に先立つ17日、米台自由貿易協定(FTA)の交渉に関する「米国と台湾のハイレベル経済・ビジネス対話」を主催した。台湾の蔡英文総統は18日、台湾総統府で開いた歓迎夕食会で、「台湾は重要な一歩を踏み出す決意を固めた」と述べた。
■米台外交再開 識者「絵空事ではない」
米台の識者は少なからず、蔡総統の発言を「米国と台湾が外交関係を樹立する前奏曲」と受け止めており、「米国が台湾を公式に認め、自由で民主的な価値を共有する台湾と、再び国と国になることは絵空事ではない」と分析している。
共和党のトム・ティファニー米下院議員は18日、「米国が台湾との正式な外交関係を再開させ、FTAの交渉、台湾が国際機関の加盟を支持する議会意見の共同決議案を提出した」と発表した。
米国務省のデービッド・スティルウェル国務次官補(東アジア・太平洋担当)も「国務省と上下院議員の立場は一致し、台湾を支持する」と述べ、台湾の蘇貞昌行政委員長は「台湾は国際的な責任を担い、より多くの貢献をする用意がある」と語っている。
さて、「習主席とは、アイオワ州知事時代から知己の仲」との触れ込みで就任したブランスタッド大使だったが、帰国後はトランプ大統領再選に向けた支援活動をすると報じられている。北京で約3年半、中共の統治する“異形の国家”を第一線で見続けてきた人物は、何を語るのだろう?
大統領選直前の「オクトーバー・サプライズ」の目玉になりそうだ。
■河添恵子(かわそえ・けいこ) ノンフィクション作家。1963年、千葉県生まれ。名古屋市立女子短期大学卒業後、86年より北京外国語学院、遼寧師範大学へ留学。著書・共著に『トランプが中国の夢を終わらせる』(ワニブックス)、『世界はこれほど日本が好き』(祥伝社黄金文庫)、『覇権・監視国家-世界は「習近平中国」の崩壊を望んでいる』(ワック)、『習近平が隠蔽したコロナの正体』(同)など多数。