「任期内に憲法改正の実現を目指す」と公言してきた岸田文雄首相の自民党総裁任期が来年9月に迫ってきた。
改憲の是非を問う国民投票は、周知期間として国会発議から60~180日間空けることなどを踏まえると、今秋の臨時国会には憲法改正案をまとめ、遅くとも来年の通常国会終盤には国会発議を行う必要がある。政党間で改正案をまとめるために残された時間は少ない。
「目の前の任期において改正すべく努力するとの思いを(以前から)申し上げている」。首相は先の通常国会が閉幕した6月21日の記者会見で、総裁任期中の改憲を目指す考えを重ねて示した。
国民投票までの期間が最短の60日の場合、来年の6~7月に発議できれば、9月末までの任期内に間に合う。憲法問題に詳しい専門家は「来年1月の通常国会冒頭に改憲案を提出し、150日間の会期をフルに使って衆参両院で審議し、発議するという流れが最も穏当ではないか」と語る。
ただ、憲政史上初めて改憲の可否を問う機会になるだけに、「最長の180日をかけて国民への周知徹底を図るべきだ」との声が強まる可能性がある。その場合は3月までに発議する必要があり、予算審議の時期と重なるため、スケジュールはかなり窮屈になる。
60日であれ180日であれ、ポイントは今秋の臨時国会だ。日本維新の会の幹部は「首相が約束を果たすためには臨時国会で改憲案をまとめなければならない」と語る。
道のりは平坦(へいたん)ではない。立憲民主党は憲法改正の賛否を訴えるテレビCMやネット広告の規制強化を主張し、改憲案作りより改憲のルールを定めた国民投票法改正の議論を優先すべきだと訴えている。
また、発議から国民投票までの間、国民の判断材料の提供を担う「国民投票広報協議会」の制度設計に関する議論も緒に就いたばかりだ。
「可及的速やかに改憲を目指すという総裁の強い気持ちを共有している」。衆院憲法審査会の与党筆頭幹事を務める新藤義孝元総務相(自民憲法改正実現本部事務総長)は7月の産経新聞のインタビューでそう述べつつ、「期限ありきではなく、議論を深めることに尽きる。各党が真摯(しんし)に議論できる土俵を作っていく」と強調した。
先の専門家は「改憲勢力は発議に必要な3分の2の議席を持っている。秋の臨時国会で立民が改憲案の議論に乗ってこない場合、改憲勢力がけんか覚悟で突破を図ってくるのか否かが焦点になる」と語る。(内藤慎二)