香港出身の国際政治学者、林泉忠(りん・
せんちゅう)氏は「中国は沖縄の地位問題
には慎重な態度で対処するだろう」とみる。
主権の問題に安易に手を出せば、台湾
問題などに飛び火する可能性もあるためだ。
ただ、習政権はここ数年、連携を強める
ロシアを意識し、北方領土問題でロシア寄
りの姿勢に調整する発言を見せている。
林氏は「今後、東アジアの地域関係が大
きく動いた際に中国が戦略をいかに調整し、
『沖縄カード』を切るのかは注目に値する」
と指摘する。
沖縄も「対日カード」か 習近平氏の「琉球」発言が波紋 人民日報1面
6月4日付の人民日報1面。習近平国家主席の「琉球」に関する言及を伝えた(三塚聖平撮影)
沖縄県の玉城デニー知事が7月初旬に中国を訪れるのを前に、尖閣諸島(同県石垣市)に関連して「琉球」と中国の交流の深さに言及した習近平国家主席の今月初めの発言が、なお波紋を広げている。
習氏の発言の意図を図りかねる中、沖縄では日本政府との関係への揺さぶりを警戒する声も。一方、習政権は台湾問題を巡る日本の関与にいらだちを募らせており、沖縄を新たな「対日カード」とするのではないかとの臆測もある。
中国共産党機関紙、人民日報は6月4日付1面で、習氏が古書などの歴史資料を収蔵する中国国家版本館(北京市)を1日に視察した際の様子を伝え、その中で習氏が琉球と中国の交流に言及したと報じた。
職員から「釣魚島(尖閣諸島の中国側名称)とその付属島嶼(とうしょ)が中国の版図に属すると記録」したという明代の古書の説明を受けた習氏は、福建省福州市での勤務時代を振り返り「福州には琉球館、琉球墓があり、琉球との交流の根源が深いと知った」と発言。
明代に福建から琉球へ渡来した「閩(びん)人(久米)三十六姓」にも言及した。
習氏は1990年代に福州市トップを務めた。琉球王国の滞在施設だった琉球館には、習氏に関する展示もあり、習氏は福州勤務時代に那覇市との「友好交流を重視していた」という。
習氏の発言について、日本への新たな揺さぶりという見方が浮上している。人民日報は2013年5月に、沖縄の帰属について「歴史上の懸案で、未解決の問題」と疑問視する研究者の論文を掲載。
同紙傘下の環球時報は、沖縄の独立勢力を「育成すべきだ」と主張した。当時は日本政府の尖閣国有化を受けて日中関係が悪化しており対日圧力の一環とみられていた。その再現という見方だ。
香港出身の国際政治学者、林泉忠(りん・せんちゅう)氏は「中国は沖縄の地位問題には慎重な態度で対処するだろう」とみる。
主権の問題に安易に手を出せば、台湾問題などに飛び火する可能性もあるためだ。
ただ、習政権はここ数年、連携を強めるロシアを意識し、北方領土問題でロシア寄りの姿勢に調整する発言を見せている。
林氏は「今後、東アジアの地域関係が大きく動いた際に中国が戦略をいかに調整し、『沖縄カード』を切るのかは注目に値する」と指摘する。(北京 三塚聖平)
知事訪中直前で沖縄県内でも波紋 「友好の証し」「揺さぶり」 習氏の「琉球」発言
玉城デニー沖縄県知事(矢島康弘撮影)
中国の習近平国家主席が沖縄について発言したと中国共産党機関紙、人民日報が報じたことは、沖縄県内でも波紋を広げている。識者からは「友好の証し」と歓迎する声がある一方、「沖縄問題で揺さぶりをかけている」と危惧する声も強い。習氏の発言は、7月に訪中予定の玉城デニー沖縄県知事を意識したともみられ、玉城氏の対応も問われそうだ。
中国共産党機関紙、人民日報は6月4日付1面で、習氏が古書などの歴史資料を収蔵する中国国家版本館(北京市)を1日に視察した際の様子を伝え、その中で習氏が琉球と中国の交流に言及したと報じた。
職員から「釣魚島(尖閣諸島の中国側名称)とその付属島嶼(とうしょ)が中国の版図に属すると記録」したという明代の古書の説明を受けた習氏は、福建省福州市での勤務時代を振り返り「福州には琉球館、琉球墓があり、琉球との交流の根源が深いと知った」と発言。明代に福建から琉球へ渡来した「閩(びん)人(久米)三十六姓」にも言及した。
玉城氏は8日の記者会見で習氏の発言について「歴史や文化についてかなり深い見識をお持ちであると受け止めている」と評価。玉城氏は7月3~6日、日本国際貿易促進協会(河野洋平会長)の訪中団に同行する予定でおり、「(習氏の発言は)今後の交流発展に意欲を示されたものと受け止めている」とも述べた。
一方、習氏の発言は、単なる交流目的ではないと警戒する声もある。
『習近平・独裁者の決断』の共著者でキヤノングローバル戦略研究所主任研究員の峯村健司氏は「中国指導者の発言に戦略的な意図のないものはない」とした上で、「玉城氏の訪中1カ月前のタイミングでの発言であることに注意すべきだ」と指摘する。
峯村氏によれば中国政府や軍部の一部には、琉球王国は中国の藩属国だったが日本が武力で併合したと考える向きがあり、内部では10年以上にわたり沖縄の「帰属問題」が研究、議論されてきた。
習氏も沖縄の歴史に強いこだわりを持っているとされ、峯村氏は「今回の発言をきっかけに、中国側が沖縄への世論工作などを仕掛けてくる可能性がある」と分析。玉城氏の訪中についても「中国側は玉城氏の言動を注意深く観察し、利用しようとするだろう」と危惧する。
沖縄に対する工作活動については、公安調査庁が平成29年にまとめた報告書でも、中国側が「琉球独立」論者らとの交流を進め、中国に有利な世論を形成して分断を図ろうとする狙いなどがうかがえると指摘されていた。
こうした中、沖縄県内の保守派からは、玉城氏の訪中に際し、慎重対応を求める声も上がっている。
県議会で最大会派の自民党は、中国公船が尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返している問題について、訪中時に取り上げるよう求めてきた。玉城氏は4月の記者会見で「主に経済や文化交流の発展などを念頭に中国への提案内容を詰めたい」と述べており、尖閣問題には触れない可能性があるが、自民党県連幹部は「交流などを『お願い』するだけでは付けこまれる。少なくとも沖縄にとって重要な尖閣問題を取り上げるべきだ」としている。(川瀬弘至)