「また台湾で射撃訓練か」
漁協の 嵩西 茂則組合長(60)は、ため息をついた。
「中台統一」を掲げる中国が台湾周辺で軍事的な威嚇を
続ける中、「中国の脅威にさらされ、台湾の演習が増えた」
と肌で感じ取る。
2018年度に15件だったメールは昨年度、34件に
増えた。台湾東側は、アカマチ(ハマダイ)などの好
漁場で知られるが、演習が増えれば漁場は狭まる。
糸数町長は焦りを隠さない。「命をどう守るかと
いう問題だが、国や県の動きが鈍い。危機感が足りない」
人口1700人の与那国島、
有事の最前線…自衛隊配備進む
[沖縄復帰50年]<1>安全保障
沖縄本島の509キロ・メートル南西に浮かぶ日本最西端の与那国島(沖縄県与那国町)は、人口約1700人の国境離島だ。台湾から111キロ・メートルの島は今、中国の軍事的な台頭で緊張が高まっている。
島の高台に設置されている自衛隊のレーダー施設(左奥は陸上自衛隊与那国駐屯地)(4月27日、沖縄県与那国町で)=中司雅信撮影
4月28日、1通のメールが与那国島の漁業協同組合に届いた。題名は「台湾東における射撃訓練」。台湾軍の演習に伴い、特定海域にいる漁船に対して、水産庁が注意を呼びかける漁業安全情報だ。
「また台湾で射撃訓練か」
漁協の 嵩西 茂則組合長(60)は、ため息をついた。「中台統一」を掲げる中国が台湾周辺で軍事的な威嚇を続ける中、「中国の脅威にさらされ、台湾の演習が増えた」と肌で感じ取る。2018年度に15件だったメールは昨年度、34件に増えた。台湾東側は、アカマチ(ハマダイ)などの好漁場で知られるが、演習が増えれば漁場は狭まる。

島の守りは、かつて「拳銃2丁」とやゆされた。島内に2か所ある警察の駐在所にちなんだものだ。長く防衛の空白地帯と指摘されてきたが、16年3月に陸上自衛隊の駐屯地が設置された。沿岸監視隊員約160人がレーダーなどで船舶や航空機を24時間監視する。
航空自衛隊も今年4月、駐屯地を拠点に与那国分遣班を新設。移動式警戒管制レーダーで領空侵犯の恐れがある外国軍機を探知し、那覇市の航空自衛隊那覇基地からの緊急発進(スクランブル)につなげる。昨年度のスクランブルは1004回で過去2番目の多さだった。中国機への対応は全体の7割を超える。
目視で中国機を確認したこともあるF15戦闘機パイロットの藤田俊介1尉(31)は「相手が何をするか分からないだけに、中国機を確認すると緊張感が高まる」と語る。
防衛省は、敵のレーダーや通信機器を無力化する電子戦部隊について、23年度にも与那国島への配備を計画している。「拳銃2丁」だった与那国は、いまや国境の守りの最前線だ。
与那国以外でも自衛隊の存在感は高まる。駐屯地は19年に宮古島に設置され、22年度中には石垣島でも開設される。太平洋戦争で県民の約4分の1が亡くなったとされる沖縄戦の記憶から「基地は攻撃対象になる」と反対運動もあるが、危機感を抱く住民の間では自衛隊誘致を求める声が広がる。
ロシアによるウクライナ侵攻も影を落とす。
与那国町の糸数健一町長(68)は侵攻の一報を聞き、「中国が好機とみて、台湾にちょっかいを出さないだろうか」と不安に駆られた。ウクライナの市街地の惨状を見て、「戦場になる前に一般人を避難させなければ」とも感じた。
町は台湾有事も念頭に、国民保護法に基づく避難想定例を策定済みだが、対象範囲は島内にとどまる。地区ごとに学校などに集めた町民を、空港や港にバスなどで運ぶ想定だ。その先の島外への避難は、主に国が責任を持つが、町は明確な回答を得られていない。糸数町長は焦りを隠さない。
「命をどう守るかという問題だが、国や県の動きが鈍い。危機感が足りない」