【沖縄取材の現場から】参院選での野党共闘、沖縄戦線異状あり2019.5.24 01:00プレミアム

記者会見後に並んで出席した(前列左から)糸数慶子参院議員、高良鉄美氏、玉城デニー沖縄県知事=5月7日、那覇市内(杉本康士撮影)
夏の参院選で勝敗の鍵を握るのは、32の改選1人区における野党の候補者調整だ。野党がバラバラのまま候補者が乱立すれば、与党は優位に戦いを進めることができる。立憲民主、国民民主、共産、社民の主要野党は統一候補擁立を目指す方針では一致しているが、そんな中で野党共闘のモデルケースとも言える沖縄県で異変が起きている。
「オール沖縄」内部で不協和音
「まさにこの瞬間をみんなが心待ちにしていた」
沖縄県の玉城デニー知事は5月7日、こう語り、笑顔を見せた。
改選1人区である参院選沖縄選挙区に出馬する元琉球大院教授、高良鉄美氏の出馬記者会見でのことだった。会見には出馬を断念した現参院議員の糸数慶子氏も同席したほか、共産党や社民党など「オール沖縄」を構成する政党、労働組合の県組織幹部もそろって顔を見せた。
オール沖縄系候補は昨年9月の知事選で玉城氏が当選して以降、県内のさまざまな選挙で連勝を重ねている。このまま参院選も勝利したいところだが、オール沖縄の内部では不協和音が続いていた。
参院選の候補者選考をめぐっては、糸数氏が所属していた地域政党・沖縄社会大衆党が昨年末に高良氏を擁立する方針を決め、出馬に意欲を示していた糸数氏に勇退を勧告した。糸数氏は参院選の立候補見送りを了承した。
しかし、糸数氏は高良氏の擁立に反発して社大党を離党し、昨年の知事選で玉城氏を支持した県民有志でつくる「『県民の声』100人委員会」は「(高良氏擁立の)選考過程が不透明」などとして異議を唱えた。
100人委には玉城氏の後援会長を務める県内建設・流通大手「金秀」の呉屋守将会長や、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾=ぎのわん=市)の名護市辺野古移設を問う県民投票実現に向けた署名集めを行った団体代表の元山仁士郎氏らも名を連ねている。
こうした動きは、オール沖縄の連携に微妙な影を落としている。
衆院沖縄3区補欠選挙(4月21日投開票)では、オール沖縄の支持を受けて当選した屋良氏の集会で、すでに参院選擁立が決まっていた高良氏はあいさつの機会すら与えられず、手持ちぶさたにたたずむ姿が目立った。社民党から参院選比例代表に出馬する県議が司会を務めていたのとは対照的だった。
屋良陣営の幹部は、高良氏を冷遇した理由について100人委の顔色をうかがったことを打ち明ける。
「メンバーは選挙の実動部隊になる活動家ばかりだ。彼らの機嫌を損ねては選挙にならない」
高良氏サイドがオール沖縄に参加する政党や県議会会派に面会を申し入れたところ「3区補選が終わるまで会わない」と突っぱねられたという。
3区補選が終わってからも混乱は続いた。糸数氏サイドとの調整に関し、社大党はオール沖縄の会議に委ねようとした。しかし、オール沖縄は高良氏と糸数氏の折衝はあくまで当事者間で行うべきだとし、まずは社大党独自で高良氏の出馬会見を行うよう求めた。これを受け、社大党は大型連休真っ最中の5月4日に緊急記者会見を開いた。
オール沖縄勢力が高良氏支持を正式発表したのは7日。社大党はこれに間に合わせるため、わざわざ連休中に緊急会見を開いたのだ。玉城氏が同日の会見で「心待ちにしていた」と語ったのは、それまでの紆余曲折(うよきょくせつ)が念頭にあったに違いない。
玉城知事への不満も増幅
だが、オール沖縄内部の火種が完全に消えたわけではない。高良氏の擁立をめぐるドタバタ劇は、沖縄県内の野党共闘を支える仕組みそのものが遠因となっているからだ。
沖縄県内の国政選挙では、衆院沖縄1区が共産党、2区が社民党、3区は国民民主党(旧自由党)などと住み分けが確定しており、今年改選を迎える参院選沖縄選挙区は社大党の「指定席」だった。100人委の主要メンバーは「なんで少数政党の既得権益みたいになっているのか。せめて予備選挙を行うぐらいでないと民主的とはいえない」と不満を募らせていた。
こうした不満に加え、オール沖縄内部の勢力争いも従来の野党住み分けを脅かす可能性をはらむ。
衆院沖縄1区は共産党の赤嶺政賢氏、2区は社民党の照屋寛徳氏が議席を保有しているが、両氏はそれぞれ71歳、73歳と高齢だ。オール沖縄内部には世代交代を理由に1区と2区の候補者差し替えを狙う動きもある。オール沖縄系県議の一人は、100人委の動きを歓迎した上で「これで政党の既得権益化を解消できるかもしれない」ともくろむ。
不協和音を解消する上では玉城氏のリーダーシップが不可欠だが、肝心の玉城氏にも不満が鬱積(うっせき)している。
「だったらもう、あなたの自己責任でやってくれ!」
4月上旬、オール沖縄の幹部県議は知事公舎で玉城氏に声を荒らげた。3区補選の選挙期間中、中国への出張を決めた玉城氏に再考を促したが、玉城氏は「選挙を理由に公務をおろそかにしていいものか…」と煮え切らない態度を示したからだ。
玉城氏は結局、中国出張の期間を短縮したが、屋良陣営の関係者は「自分の後継者を選ぶ選挙なのに緊張感がなさ過ぎる」と不信感を隠さなかった。
3月下旬、那覇市内で杯を酌み交わした共産党と社民党の県議2人は「デニーさんはわれわれのことを一体どう考えているんだろうか…。納得できない」と語り合った。
玉城氏は那覇市の米軍那覇港湾施設(那覇軍港)を浦添市の米軍牧港補給地区沿岸に移設するための埋め立て計画について容認の姿勢を示している。共産、社民両党にとって移設計画は受け入れがたく、玉城氏は革新政党に配慮が欠けるというわけだ。
参院選で高良氏有利との見通しは、敵方の自民党県連幹部の口からも漏れる。しかし、オール沖縄内部では確執が続き、玉城氏もまとめ役を果たし切れていない。沖縄県が野党共闘のモデルケースだとしても、その内情は決してバラ色とはいえないのが実情だ。
(那覇支局長 杉本康士)