【シンガポール=森浩】米軍とフィリピン軍は11日、過去最大規模の合同軍事演習「バリカタン」を開始した。28日まで行われ、両軍合わせて1万7千人以上が参加する。
米比は11日、米ワシントンで7年ぶりとなる外務・防衛閣僚対話(2プラス2)を実施。中国が南シナ海への進出や台湾への圧力を継続する中、安全保障面での連携を深化させていく考えだ。
バリカタンは今回で38回目。米軍から1万2200人、フィリピン軍から5400人と、昨年(計約8900人)の2倍規模。インド太平洋地域の安定化に向けた関与強化を打ち出すオーストラリア軍も合流する。
フィリピン紙インクワイアラーによると、首都マニラ北西の南シナ海で、米国がウクライナにも供与する高機動ロケット砲システム「ハイマース」を使い船を撃沈する訓練も実施する。
実戦を意識した内容となりそうだ。バリカタンのフィリピン側報道担当は11日の開幕式典に際し、「演習は誰かを挑発するものではない。他国の侵略を思いとどまらせるためだ」と意義を強調した。
米国にとり、南シナ海に面し台湾海峡にも近い同盟国フィリピンの重要性は増している。米比は2月、米軍が巡回駐留できる比国内の拠点を4カ所追加することで合意した。
マニラ近郊の空軍基地では米軍の支援による滑走路整備も始まった。米国はフィリピンを足掛かりに、周辺での有事に対する即応性を高めたい考えだ。
米国にとって好機といえるのが、フィリピンの外交方針の修正だ。昨年6月に就任したマルコス大統領は中国の海洋進出を念頭に「領土は1インチも譲らない」と宣言。
対中融和姿勢を崩さなかったドゥテルテ前大統領とは違い、安保面で米国に接近する姿勢を鮮明にしている。マルコス氏はバリカタンや2プラス2を米比関係を強化する重要な機会と捉えている。
ただ、比国内では過度な米国接近に懸念も漂っている。マルコス氏の姉で上院外交委員長のアイミー・マルコス氏は「自分たちのものではない戦争に参加できない」と述べ、台湾有事にフィリピンが巻き込まれることへの警戒感を隠さない。
マルコス氏は「米軍は恒久的に国内に駐留しない」と断言しつつ、巡回駐留を認めることで「必要が生じたときにフィリピンが支援を受けることができる」と意義を強調。米国との緊密化について、国内に理解を求めていく方針だ。