「覆面禁止法」の施行などに抗議し行われたデモ=5日、香港(共同)
【香港=田中靖人】香港政府は5日、「緊急状況規則条例」(緊急法)に基づきデモ隊のマスク着用を禁止する「覆面禁止法」を施行した。だが、同日午後には1千人超のデモ行進が行われ、大部分がマスク着用で参加した。デモ側はマスク禁止の内容と立法手続きの双方に反発、緊張が高まっている。
林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官は5日、テレビ演説を行い、4日夜の一部デモ隊による放火や破壊活動について「前代未聞だ」と批判。「こうした極端な暴力の状況こそ緊急法で覆面禁止法を制定した理由だ」と法制定を正当化し、「最大の決心で暴力を阻止する」と強硬策に踏み切ることを示唆した。
4日夜に私服警官の発砲で重傷を負った少年(14)の容体は落ち着き、5日夜に暴動と警察官襲撃の容疑で逮捕手続きが取られた。4日夜の混乱の影響で、5日は地下鉄全線が運休し10カ所以上の大型商業施設が休業するなど市民生活に影響が出た。
覆面禁止法は合法デモでもマスクを禁じた。警察は違反者の拘束が認められ、1年以下の禁錮刑か2万5千香港ドル(約34万円)以下の罰金が科される。
香港島中心部で5日午後に行われたデモ行進では、かけ声が従来の「香港人がんばれ」から「香港人は抵抗せよ」に変わった。マスク着用の公務員男性(23)は「不正な法を守る必要はない。マスクは政府への不満の証しだ」と話した。行進の終着地点で、マスク姿の男女2人が警官隊に取り押さえられ、身分証確認後に解放された。5日夜にも数カ所で集会が開かれ、複数人が拘束された。
一方、ネット上で「香港臨時政府宣言」という文書が4日夜に広まり、一部のデモ現場で読み上げられた。行政長官の失職や立法会(議会)の解散を宣言。具体的な動きはなく空文とみられるが、支持が広がれば、政府側が態度を硬化させる可能性がある。
香港で「逃亡犯条例」改正案を発端とした抗議活動をするデモ隊(奥)に、警官隊が催涙弾を撃ち込み現場に立ち込める煙=1日(共同)
【北京=三塚聖平】中国共産党機関紙の人民日報など中国各紙は5日、香港でデモ参加者のマスク着用を禁ずる「覆面禁止法」の施行を受け、「多くの国と地域が覆面を禁じる法律を制定している」などと指摘し、同措置は正当なものだと主張した。
人民日報は5日付の1面記事で、「林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官が率いる(香港)特区政府が法治の尊厳を守る能力を必ず持っていると信じている」とし、香港政府に事態収拾を迫った。
同記事は、欧米やカナダに同様の禁止措置があると指摘。広東省党委員会機関紙の南方日報(電子版)も「世界で広く行われている手段だ」と措置の正当性を強調した。
一方、中国政府は香港の混乱が中国本土に飛び火することを防ぐため、デモに対する批判を強めている。 背景には、米国を念頭に外国勢力が混乱を激化させているという中国政府の警戒感があるとみられる。
香港政策を担当する香港マカオ事務弁公室の報道官は4日の談話で、香港のデモについて「外部勢力の介入・関与の下で『香港版カラー革命』に変化している」と指摘した。
カラー革命は、2000年代に旧ソ連圏で相次いだ大衆行動による政権交代で、ウクライナの「オレンジ革命」(04年)などが挙げられる。
中国政府は、デモ隊への対応で妥協すれば、事態をエスカレートさせ中国本土への波及につながりかねないとみて強硬姿勢を示しているとみられる。