【香港=藤本欣也】9月6日の香港立法会(議会)選に向け11、12日に行われた香港民主派の予備選で、61万人の有権者が投票所に足を運んだ。有権者全体では13%程度。
親中派は「過大評価すべきでない」と主張する。しかし「香港国家安全維持法」(国安法)への抗議デモに61万人が参加したと考えれば、中国・香港政府も無視できない規模といえる。市民は何を訴えようとしたのか。
予備選の投票は民主派の議員事務所のほか、民主派を支持する飲食店など約250カ所で行われた。
投票所で市民に話を聞くと、共通していたのは危機感だ。
「去年から弾圧が続き、次々に自由が失われている。そのうち、怖がることさえもできなくなるのではないか。今回が自由に投票できる最後になるかもしれない」と語ったのは新界地区の20歳の男子大学生だ。
「崖っぷちに立たされ、必死にもがいている感じ。国安法はごく一部の人が対象になるだけだと政府は説明するが、信じられるものか」と、九竜地区の30代男性の建築業者も話した。
ただ、市民ができることは限られている。
「(香港の憲法である)基本法には、言論、集会、デモの自由があると明記されている。私は基本法で認められた権利を行使するために投票に来た。香港の自由を守るために、やれることをやりたい」とは香港島の49歳の女性会社員。
「できることをするしかない。国際社会の支持を得るためにも、まず私たち香港人が声を上げないといけない」と新界地区の35歳の男性教師も語った。
「どうしても投票したいという(80代の)母親を連れてきた。国安法が怖くても、公民としての責任は果たさないといけない」と、母親と一緒に投票した九竜地区の57歳の男性もいた。
こうした中、香港政府が市民の投票の権利までも、国安法で規制しようとしたことに対する怒りも少なくなかった。
「もし投票することが罪になるなら、今ここで整然と並んでいる全員を、そして香港で投票した数十万人全員を逮捕すればいい」。新界地区の39歳の女性は憤っていた。
「香港は香港人のものであり中国共産党のものではない。それを投票を通じて中国に伝えたい」と新界地区の63歳の男性は語った。
「香港国安法への抗議活動」 民主派予備選運営の元立法会議員
【香港=藤本欣也】9月6日の香港立法会(議会)選に向けた民主派の予備選の運営に当たった区諾軒(おう・だくけん)元立法会議員(33)が13日、産経新聞の取材に応じ、「予備選は香港国家安全維持法(国安法)に対する香港人たちの抗議活動だった」と、その意義を強調した。一方で今後、当局による候補者の資格剥奪が相次ぐとして、「香港は(有権者が)選びたい人を選べない時代が来る」と危機感を示した。
「あの夜、逮捕されると思った」と振り返るのは、投票前日の10日、予備選をサポートする世論調査会社が警察の家宅捜索を受けた夜のこと。「何が起きてもおかしくないとスタッフ全員が緊張した」という。
結局、当局の威嚇にもかかわらず、区氏らの目標の3倍を超える61万人が投票に参加した。「私たちも本当に驚いた。香港人一人一人が歴史をつくった」と市民の勇気をたたえる。
今後の焦点は立候補の届け出が始まる18日以降。「政府は民主派候補のこれまでの発言を審査し、立候補資格を認めないケースが出てくるだろう。そのための準備もしている。立法会選で民主派が過半数を獲得するための戦いはこれからが正念場だ」と語った。