茂木敏充外相が「自由で開かれたインド太平洋」の旗振り役として前面に立っている。
国際社会でリーダーシップを発揮した安倍晋三前首相が表舞台から去り、新型コロナウイルスの影響で菅義偉(すが・よしひで)首相の首脳外交も制限される中、精力的に外国訪問を重ねてインド太平洋構想への支持を訴えている。覇権主義を強める中国をにらみ「法の支配」や「航行の自由」を基礎とする国際秩序づくりを主導する考えだ。
「自由で開かれたインド太平洋のビジョンは、ポストコロナの世界においてますます重要性を増している」
茂木氏はこう強調する。コロナ渦で止まっていた外国訪問を8月に再開すると、英国を皮切りにアジア大洋州諸国を断続的に歴訪。すべての訪問国で「自由で開かれたインド太平洋」を提起した。
29日からはフランスなどを訪れ、帰国後にはインド太平洋構想の主役がそろう日米豪印の外相会談も東京で行う。
「自由で開かれたインド太平洋」は、安倍氏が2016年のアフリカ開発会議(TICAD)で提唱した。アジアからインド洋を経て中東・アフリカに至る地域において「法の支配」に基づく海洋秩序や自由貿易の定着を実現することを柱とする。巨大経済圏構想「一帯一路」を掲げ、海洋覇権を狙う中国への対抗軸とする狙いがある。
安倍氏は首脳外交を通じ、米豪印や東南アジア諸国などを巻き込んで各国から賛同を得た。英国やフランス、ドイツなど欧州の主要国でも確実に浸透している。外務省幹部は「この4年で構想は軌道に乗った」と自信をみせる。
ただ、中国も経済力を背景とした働きかけを各国で続ける。手を緩めれば“オセロゲーム”のように覆される懸念もあるだけに、インド太平洋構想の継続と発展は日本外交の主題といえる。