公明党・石井啓一幹事長(春名中撮影)
政府が18日に閣議決定した「ミサイル阻止」に関する方針は、敵基地攻撃能力を含む抑止力の強化について結論を先送りする内容となり、公明党内に安堵(あんど)感が広がる。
菅義偉首相が公明に配慮した形だが、公明は来年の衆院解散・総選挙を見据え、政府・自民党への主張を強め続けている。
衆院広島3区での公明候補擁立の強行もその一つで、連立与党内で不協和音が拡大する可能性もある。(力武崇樹)
「敵基地攻撃については、じっくり腰を据えて議論する必要がある」
公明党の石井啓一幹事長は18日の記者会見でこう述べ、ミサイル阻止に関する政府の方針を評価した。
集団的自衛権の限定行使を可能にする安全保障関連法(平成27年成立)をめぐり、支持者から大きな反発を受けた公明内には「安保に関する大きな方針変更はしばらくできない」(幹部)との意見が根強い。
支持母体の創価学会からも「国論が割れる議論は今後10年は避けるべきだ」との声が上がる。
そのため安倍晋三前首相が辞任直前の9月に、ミサイル阻止について年末までに「あるべき方策」を示すとの談話を発表した際には「辞めゆく人が言うべきではない」と冷ややかな見方を示す幹部もいた。
その後、党内では議論することなく、公明と関係が良好な菅首相は結論を見送った。中堅議員の一人は「完全に白紙に戻った」と胸をなでおろす。
こうした公明の対応に、自民党からは「配慮が過ぎる」と不満が漏れる。不妊治療の助成拡充や携帯電話料金の引き下げなど、公明が主張してきた政策を首相が前面に押し出し、公明が勢いづいていることも背景にある。
特に衆院広島3区の候補者擁立をめぐる問題は、自民党議員の買収事件に端を発するとはいえ、公明が与党内の調整を待たずに候補者の公認を決めたことで複雑化した面もある。自民からは「公明は自公の関係を崩したいのか」(閣僚経験者)との声も上がり、今後の調整の行方が政権の足元を揺るがす懸念もある。
今年6月に配備計画を断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替策を決めただけでは国の守りにとって十分とはいえない。侵略者に攻撃をためらわせる懲罰的・報復的抑止力の「敵基地攻撃能力」保有も欠かせない。
だが政府は、18日の閣議決定で敵基地攻撃能力保有の判断を、期限も示さずに先送りにした。極めて残念である。菅義偉首相と岸信夫防衛相、自民、公明の与党が日本の守りを真剣に考えているのか疑わしい。
閣議では、「イージス・アショア」2基の代替策として、海上自衛隊に「イージス・システム搭載艦」2隻を新造すると決めた。
島嶼(とうしょ)防衛のため、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾の射程を延ばし、遠方から敵を叩(たた)く「スタンド・オフ・ミサイル」として開発することも決めた。
イージス・アショアの代替策は艦船への搭載が最有力だった。イージス・アショアが想定していた北朝鮮の従来型弾道ミサイルにとどまらず、中露のものも含む巡航ミサイル、変則軌道のミサイルなどへの対処も実現してほしい。防衛省は地上型の失敗を繰り返さぬよう努めつつ、「搭載艦」の設計や配備を急いでもらいたい。
12式地対艦誘導弾は長射程化した上で、陸自の車両からだけでなく空自機や海自艦船からも発射できるようにする。加藤勝信官房長官は18日の会見で「敵基地攻撃を目的としたものではない」と述べた。ただし、政策転換すれば巡航ミサイルとして相手領域内への攻撃に転用することは可能だ。
今年9月に当時の安倍晋三首相が談話で「(ミサイル)迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか」と指摘した。
イージス艦や地対空誘導弾パトリオット(PAC3)で迎撃する「ミサイル防衛」だけでは国民を守り切れないと自衛隊の最高指揮官である首相が認めた意味合いは極めて重い。安倍談話は年内に敵基地攻撃能力をめぐる結論を得るとしていた。だが政府・与党で突っ込んだ議論もないまま、後継の菅首相はあっさり先送りした。
転用可能なスタンド・オフ・ミサイルを造っても、政策変更がなければ自衛隊は関連装備の調達も作戦計画の策定も訓練も困難だ。菅政権による敵基地攻撃能力保有の決断が急務である。