日本と北大西洋条約機構(NATO)が急接近している。昨年6月、日本の首相として初めてNATO首脳会議に出席した岸田文雄首相は、31日のストルテンベルグ事務総長との会談で、宇宙や偽情報対策など新領域で協力を打ち出した。ロシアのウクライナ侵略を機に、ロシアと軍事連携する中国への警戒感も増し、日本政府とNATOの双方が共同歩調を取る必要性を痛感しているためだ。
首相は会談で「NATOがインド太平洋地域に関心を高めていることを歓迎する」と述べた。ストルテンベルグ氏は、ウクライナ侵略は「アジアにも影響がある」と指摘し「アジアで起きることは欧州にも大きな影響がある」とも語った。
安全保障に関する役割は広がり、地理的な壁は崩れつつある。日米同盟を基軸に中国や北朝鮮と対峙してきた日本は、欧州で起きたウクライナ侵略に積極的に関与し、対露制裁で欧米と足並みをそろえた。
首相は昨年のNATO首脳会議で「ウクライナは明日の東アジアかもしれない」と語り、中国の脅威は欧州にとって人ごとではないと訴えた。主に欧州における集団防衛の枠組みのNATOも、首脳会議で採択した「戦略概念」で、中国が「体制上の挑戦」を突き付けており、「インド太平洋地域はNATOにとって重要だ」と明記した。
中国やロシアはフェイクニュースによる世論工作や、サイバー攻撃、宇宙空間での軍事活動などにも力を入れている。会談後の共同声明では、こうした地理的制約を超えた新領域でも協力の推進を確認した。
北大西洋理事会(NAC)への日本の定期参加や、国別適合パートナーシップ計画(ITPP)を策定する方向も決まり、外務省幹部は「日本がNATOの協力体系の中に位置づけられる」と語る。(田中一世)