1日の衆院憲法審査会では、前々回の参考人として改憲による国会議員の任期延長論を批判した早大大学院の長谷部恭男教授に対し、憲法改正に前向きな政党が違和感を表明する場面が目立った。
長谷部氏はかつて憲法審の場で「安保法制は違憲」と断じ、護憲派などの反対運動が盛り上がるきっかけを作った。識者の意見は尊重しつつ、反論すべきは反論する狙いがある。
この日の憲法審で国民民主党の玉木雄一郎代表は「蓋然性が低くても可能性がある限り、(国会議員は)国民の生命や権利を守るために『あるべき法制度』を構築する責任を負っている。
危機に備えるかどうかを決めるのは学者ではない」と述べた。これは5月18日の憲法審で長谷部氏が示した見解への反論だ。
衆院解散後の緊急事態に参院が国会機能を代行する「参院の緊急集会」を巡っては、総選挙を経て特別国会までの衆院不在の70日間に限られるとの見方がある。
このため、自民党や公明党、日本維新の会、国民民主などは国民の安全を守るため改憲で緊急事態条項を新設し、国会議員の任期延長などを可能にしておくべきだと訴えてきた。
ただ、緊急集会の活用に前向きな長谷部氏は先月18日の憲法審で「日数を限った文言にこだわり、任期延長議論を進めるべきではない」と主張。
国政選挙が長期間困難となるような緊急事態に関しても「実際に発生し得るかというと、かなり疑いを持ってもよいのではないか」と述べた。
国会では新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)などを踏まえ、広範囲で選挙の実施が困難となる事態は発生し得るとの声が根強い。
1日の憲法審では、司法試験考査委員として憲法の科目で問題作成などの経験を持つ自民の山下貴司元法相が「緊急集会に関する見解を正解とするわけにはいかない。(衆院不在の)国会の片翼飛行を長期化させかねない」と長谷部氏の見解に懸念を表明。
また、維新の小野泰輔氏も「有事が起こったときになりふり構わずに何でもありだというのが本当に立憲主義なのか」と違和感を口にした。
長谷部氏は平成27年に安全保障関連法案が衆院憲法審で取り上げられた際、与党側が推薦した参考人だったにもかかわらず「違憲」と明言し、護憲派を勢いづけた。
1日の衆院憲法審では立民や共産党からは長谷部氏を絶賛する声が相次ぎ、立民の階猛氏は「立憲主義の本質を踏まえたものであり、まさに正論だ」と持ち上げた。(太田泰、内藤慎二)