米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設計画で、国が申請した工事の設計変更を県が不承認とした処分の妥当性などが争われている訴訟の最高裁判決が9月4日に言い渡される。
県の敗訴が確定する見通しだが、不承認処分は移設工事反対の「最大の切り札」だ。それを失う玉城デニー知事は今後どう動くのか。移設計画は、大きな岐路を迎えようとしている。
不承認カード
「反対の思いはいささかも変わっていない」
最高裁判決を前にした8月25日の知事会見。玉城氏はこう述べ、従来の姿勢を強調した。
だが、その表情に余裕はみられない。
市街地に囲まれた普天間飛行場の危険性除去に向け、辺野古沿岸部を埋め立てて移設する工事が始まったのは平成29年4月。しかし東側の海域に軟弱地盤が見つかり、防衛省は令和2年4月、地盤改良に伴う設計変更を県に申請した。
県が承認しない限り、工事は進められない。玉城氏は設計変更の審査を1年7カ月も引き延ばした末、3年11月に不承認とした。移設工事反対派がいう、「最大の切り札」を使ったのだ。
一方、国は県の不承認処分を取り消すとともに、承認を求める是正指示を出した。しかし県は従わず、国の関与を違法として提訴したのが、今回の裁判である。
県が裁量権乱用
辺野古移設をめぐる国と県との訴訟は計13件に上るが、和解や取り下げなどを除き、判決に至ったケースではいずれも県が敗訴している。
今回も、福岡高裁那覇支部が3月に言い渡した判決文には県にとって厳しい言葉が並んだ。
「(県による)不承認処分の理由はいずれも裁量権の範囲を逸脱、乱用した違法があり、(国による)是正の指示の理由は正当…」
全面敗訴である。県は最高裁に上告したものの、高裁判決の変更に必要な弁論が開かれないまま、9月4日に最高裁判決が言い渡されることになった。玉城氏は8月25日、「公平・中立な判断を最後まで期待する」とのコメントを発表したが、このまま県の敗訴が確定する見通しだ。
「いばらの道」
辺野古沿岸部の埋め立て工事は現在、設計変更を必要としない南側の海域は陸地化されたが、全体の約7割を占める東側は土砂を投入できないでいる。
県が敗訴すれば、玉城氏は設計変更を承認する義務を負う。順調にいけば「約12年で全ての工事が完了し、移設が可能になる」と防衛省関係者。ただし「県が協力してくれるなら」だ。
玉城氏を支持する「オール沖縄」関係者は「最高裁判決後に別の理由で再度不承認にすることは可能だ」と主張。同月28日には複数の革新系団体が県に対し、敗訴しても不承認を貫くよう求める要望書を提出した。
こうした中、玉城氏が最高裁判決に従えば革新系の支持を失い、政治生命を危うくしかねない。逆に従わなければ法治国家のルールを無視したとして猛烈な批判を浴びることになる。
「どちらにせよ、いばらの道だ」と県幹部は表情をゆがめる。一方、保守系県議は「すべては知事の責任。自業自得だ」と突き放した。(川瀬弘至)