岸田文雄首相が「年内の衆院解散見送り」の意向を固めたことで、自民党内で首相の求心力低下が懸念されている。何度も解散の機会を逃したことで「決断できないリーダー」というイメージが定着し、内閣支持率の下落を含めて「選挙の顔」への不信が高まりかねないのだ。
政権浮揚策が相次いで不発となるなか、政局は今後、「岸田離れ」「岸田降ろし」に発展していくのか。日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増すなか、日本の国力を高めて、平和と安定を維持できるリーダーは誰なのか。永田町を知り尽くした政治のプロに、「ポスト岸田」を分析してもらった。
「まずは経済対策、先送りできない課題一つ一つに一意専心取り組む。それ以外のことは考えていない」
岸田首相は9日朝、官邸で報道各社のインタビューに応じ、こう語った。その後、自民党の麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長ら幹部5人と党本部で会談し、「解散するなど、ひと言も言っていない」といい、経済対策に注力する考えを伝えた。
自民党ベテラン議員は「岸田首相は、常に解散のタイミングを模索していたが、自ら機会を見送り、四面楚歌(そか)になった。政権は『レームダック(死に体)化』してきた」とあきれた。
報道各社の世論調査で、岸田内閣は「危険水域」とされる支持率30%以下を6社が記録している。国民の「岸田離れ」は明白だ。
ジャーナリストの鈴木哲夫氏は「自民党内で『岸田首相の〝顔〟では選挙を戦えない』との声が強まっている。こうした流れが『岸田降ろし』につながるのは確実だ。次期総裁に求められるのは『選挙に勝てる顔』だ」と強調する。
あくまで、岸田首相が次期総裁選出馬を見送るとして、「ポスト岸田」の顔ぶれ、構図はどうか。
鈴木氏「岩盤保守層の動向も重要」
鈴木氏は「まず、前回の総裁選で敗れた高市早苗経済安保相は『保守派の顔』として名乗りをあげる。河野太郎デジタル相も出るだろう。国民の知名度が高く、一部に〝待望論〟がある石破茂元幹事長を加えた3氏が争う構図が予想される。
勝敗のポイントは、選挙の強さに加え、岸田政権の官僚主導政治を、安倍晋三、菅義偉両政権が進めた政治主導に引き戻せるか。また、岸田政権で離れた岩盤保守層の動向も重要だ」という。
安倍イズム継承するのは誰だ
岸田政権は、岸田首相の岸田派と、麻生太郎党副総裁の麻生派、茂木敏充幹事長の茂木派が主流3派だ。これに対し、菅前首相のグループと、二階俊博元幹事長の二階派が反主流派。その中間が、安倍元首相の率いた最大派閥の安倍派とされる。
茂木氏や、岸田派の林芳正前外相、安倍派の萩生田光一政調会長と西村康稔経産相の動きも注目だ。
政治評論家の有馬晴海氏も「『ポスト岸田』の条件は『選挙で勝てるか』だ。自民党はガラリと雰囲気を変えなければ選挙は勝てない。上川陽子外相は安定感があり、仕事も優秀だ。『女性初の首相』なら、新味が出る。『自民党の救世主』として推す声がある。一方で、岸田政権を支えてきたのは、麻生、茂木両氏だ。党内の政治力学を踏まえれば年齢的にも、順番的にも茂木氏だろう」と語る。
ただ、日本は国内外で難局に直面している。旧来の政治力学で、この逆風を突破できるのか。識者が求める「ポスト岸田」の条件は何か。
国際政治に詳しい福井県立大学の島田洋一名誉教授は「国益を第一に『地球儀を俯瞰する外交』を確立した安倍氏の外交路線を取り戻さねばならない。安倍氏が育てた萩生田氏、高市氏に絞られてくる。覇権を強める中国への対処は急務だ。
日本人拉致問題の解決に応じず、核・ミサイル開発を進める北朝鮮も危機的だ。ロシアも加えた三国は連携して日本への圧力を強めている。日米安保を強化するため、米国保守派との連携がカギとなる。安倍氏は、それを重視していた。次期首相は、普遍的価値観で一致する各国保守派とも足並みをそろえることが必要だ」と語った。
物価高や負担増にあえぐ国内経済対策の観点からはどうか。
経済学者で上武大学の田中秀臣教授は「主流派の茂木氏が現実的だが、茂木政権ではアベノミクス継承はさらに薄れ、財務省に近い経済政策が採用されかねない。『岸田政権の再来』のような政権になる。保守派では、西村氏は海外人脈が太く国際感覚にあふれ、資源外交、経済安全保障などで責任を果たせそうだ。高市氏は、安倍氏の精神を純粋に受け継ぎ、保守派の期待も高い。萩生田氏の経済政策も問題ないだろう」と分析した。
「ポスト岸田」の動きは本格化するのか。
前出の有馬氏は「衆院選の大敗北など、よほどの失態や、辞職でない限り、首相・総裁を強引に交代させるのは難しい。ただし、『政界の一寸先は闇』だ。岸田首相の周囲から公然と反旗を翻す雰囲気が出てきており、油断のならない情勢だ」と語った。