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韓国「駆逐艦」に「北朝鮮英雄名」の「皮肉」

韓国「駆逐艦」に「北朝鮮英雄名」の「皮肉」
1/9(水) 10:09配信 新潮社 フォーサイト


 平成30(2018)年12月20日、能登半島沖のEEZ(排他的経済水域)で、韓国海軍の駆逐艦から海上自衛隊のP-1哨戒機に向けて、火器管制レーダーが照射され、両国の間で非難の応酬が続いている(12月31日現在)。

 韓国側は、遭難した北朝鮮の漁船をレーダーで探索していたと主張しているが、何やら怪しい。少なくとも今回の事案で、海上自衛隊の哨戒機側に、非はなさそうだ。韓国側の二転三転する苦し紛れの言い訳が、今後どうなっていくか、楽しみではある(意地の悪い見方だが)。


■北朝鮮の英雄という不可解

 それよりも、古代史の視点で驚かされたのは、駆逐艦の名前だ。それが「クァンゲトデワン(広開土大王=こうかいどだいおう=)」で、クァンゲト・デワン(広開土大王)級駆逐艦(KDX-1)の一番艦だ。

 クァンゲト・デワン級の駆逐艦は3隻建造されていて、今から約20年前に、就役している。

 二番艦の船名は乙支文徳(ウルチムンドク、いつしぶんとく)、三番艦は楊万春(ヤン・マンチュン、ようばんしゅん)で、これら3隻の駆逐艦は、古代高句麗の王や将軍たちの名にちなむ。

 高句麗は紀元前1世紀~7世紀にかけて朝鮮半島北部に存在したが、それは、現在の北朝鮮の領域だから、どうにも不可解だ。なぜ韓国軍の軍艦に、北朝鮮の英雄の名があてがわれているのだろう。しかもクァンゲトデワン(広開土大王)は、倭国(古代の日本)の軍勢と戦い、朝鮮半島南部まで押し寄せてきた人物だ。

 そこで、高句麗の3人の英雄の業績を追ってみよう。

 高句麗は騎馬民族(扶余族)の国だ。戦後すぐ江上波夫が騎馬民族日本征服説を唱えたが、まさにそこで推定された征服者が、高句麗の騎馬民族だった。

 彼らは中国歴代王朝ともしばしば対立したものだ。中国の王朝にとって、北東アジアの騎馬民族や遊牧民は、手強い相手だった。たとえば隋王朝(581~618)は高句麗遠征にしくじり、短命で終わっている。

 騎馬民族が中国王朝にとって脅威になった明確な理由がある。金属文明が早く起こった中国では、あっという間に樹木を燃料に使い果たしてしまい、これが、防衛上大問題となった。

 樹木に隠れるゲリラ戦も展開できず、比較的起伏に乏しい土地だったことから、ひとたび騎馬軍団に攻め寄せられると、実に脆弱だった。だから、万里の長城を築いたが、焼け石に水で、しばしば北方から侵略を受けた。

 3世紀後半に晋(しん)は中国を統一したが(その直前が、魏、呉、蜀の『三国志』の時代)、4世紀に一気に衰退する。すると、遊牧民が万里の長城を越えて侵入し、五胡十六国時代が到来した。晋は316年に滅び、晋が半島支配の拠点にしていた楽浪郡と帯方郡を高句麗が奪った。ただし、半島の付け根には、鮮卑族(騎馬民族)の建てた国・前燕(ぜんえん)が進出して高句麗を圧迫し、戦いになった。結果、高句麗は敗れ、前燕に臣従する。これが、西暦342年のことだ。


■倭国にすがった百済

 このあと高句麗は、朝鮮半島南部に活路を見出そうとする。ここで活躍したのが、高句麗第19代・好太王(広開土王、374~412。在位391~412)だった。衰退していた高句麗を中興し、領土を広げた偉大な王で、だから「広開土王」と称えられている。

 好太王は、即位の翌年(392)、さっそく南下政策をとりはじめる。だから4世紀末から朝鮮半島は動乱の時代に入った。朝鮮半島東南部の新羅は高句麗と手を組み、西南部の百済は、倭国を引きずり込み、高句麗と対峙した。

 この時代、朝鮮半島南部は悲惨な状況だった。新羅では397年、日照りが続き、イナゴが大発生し凶作となった。新羅だけではなく百済も、民は飢え、苦しんでいた。

 結局百済は、高句麗をはね返すために、ヤマト政権の軍事力をあてにしたのだ。百済王から倭国王に七支刀が贈られたのもこのころだ。

 朝鮮半島から先進の文物が古代の日本列島に流れ込んできたのは、高句麗の南下が大きな原因だった。朝鮮半島南部の国々は狼狽し、背後の憂えのない倭国にすがったのだ。見返りに、先進の知識や技術、物をさしだしたわけである。また倭国にとっても、朝鮮半島南部の同盟国・伽耶(任那)でとれる鉄が必要だったから、積極的に遠征軍を派遣したのだ。

 このような背景を知った上で高句麗の旧都にある広開土王碑文(中国吉林省集安県)の文面を読むと、じつにおもしろい。

 碑は広開土王の生前の実績を顕彰するために建てられた。各面に文字が刻まれ、全部で約1800文字ほどある。

 この碑文、旧日本軍参謀本部の手で改竄されたのではないかと、疑われてもいた。石灰を塗りたくり、碑文を書き替えたというのだ。しかし今では、その疑いも、すっかり晴れている。

 次の一節が重要だ。大意を掲げておこう。

〈百済(百残)と新羅はもともと高句麗の属民であった。だから、朝貢してきていたのだ。ところが西暦391年よりこのかた、倭が海を渡って百済を破り、新羅を□□して(□□の部分損傷していて判読不能)、もって臣民にしてしまった。そこで西暦400年、新羅を救うために5万の兵を差し向け、倭兵を追って任那加羅(朝鮮半島最南端の金官国)まではね返した。また404年に倭の水軍が西海岸づたいに帯方界(ソウル周辺)まで攻め寄せてきたので、王(広開土王)は自ら兵を率いて迎え撃ち、倭軍に大打撃を与えた〉

 この文面は、広開土王の業績を礼讃するためのものだから、誇張が含まれている可能性はあるが、おおよそ、事実に近いのではないかと考えられている。4世紀末~5世紀の倭国軍が、朝鮮半島の紛争に強く関与していたこと、強大な高句麗に立ち向かっていたことが分かる。物証もある。朝鮮半島南部には、多種多様な「倭製文物」が流れ込んでいた。しかも、弥生時代に流入していた北部九州の文物に替わって、畿内系(ヤマト周辺)の文物が多いのが特徴だ。


■文武両道に秀でた将軍

 さて、クァンゲト・デワン(広開土大王)級駆逐艦の他の艦船の名にも注目してみよう。

 二番艦の名は乙支文徳だ。これも人名で、6世紀半ばから7世紀初頭に実在した高句麗の将軍で、大臣だった。文武両道に秀でていたようだ。

『三国史記』巻44に乙支文徳伝が残されている。出自と系譜は、はっきりと分かっていないが、北朝鮮に残された伝承によれば、ピョンヤンの近くの出身らしい。何をした人かというと、西暦612年に隋が第2次高句麗遠征を敢行したとき、隋をワナにはめ、歴史的大勝利を納めたのだ。

 第三番艦・楊万春も、高句麗の将軍だ。

 隋滅亡後に中国を統一した唐は、高句麗を3度にわたって攻撃している。最終的に高句麗は唐と新羅の連合軍に滅ぼされるのだが、第1次征討は、高句麗が優勢に戦いを進めた。その時の将軍が、楊万春だった。

 こうしてみてくると、韓国の駆逐艦の名前に、違和感を覚える。たしかに、高句麗王や将軍たちは、朝鮮半島を救った英雄たちかもしれない。しかし、高句麗はほぼ北朝鮮の領域であり、しかも4世紀以降、盛んに朝鮮半島南部に攻め入っていた国だ。その英雄たちを韓国が駆逐艦の名に充てたのは、なぜだろう。

 そして、今回の事件の片方の主役が、駆逐艦クァンゲト・デワン(広開土大王)だったところに、歴史の皮肉を感じてしまうのである。クァンゲト・デワン(広開土大王)は、倭国を蹴散らした英雄の名だ。これを用いたのは、韓国人の日本に対する潜在的な対抗心の表れなのだろうか……。詮索はやめておこう。

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