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中国へ「売られる花嫁」被害相次ぐ 北朝鮮やベトナム 背景に一人っ子政策

中国へ「売られる花嫁」被害相次ぐ 北朝鮮やベトナム 背景に一人っ子政策
2/19(火) 10:01配信 西日本新聞

中国と北朝鮮の国境に流れる豆満江。川が凍り付く冬は北朝鮮(奥)から歩いて中国(手前)に渡る密入国者も多い=2018年1月撮影、中国吉林省琿春市
 中国の農村部へ近隣諸国の女性が花嫁として売られる被害が相次いでいる。人身売買組織から言葉巧みに中国へ連れ出され、見知らぬ現地の男性と結婚を強いられる北朝鮮やベトナムの女性が目立つ。中国では長年続いた「一人っ子政策」の影響で男性の数が女性を大きく上回っており、深刻化する花嫁不足が人身売買を生む素地となっている。

【地図】中国に花嫁として売られた女性の逃亡ルート

 1月下旬、ソウル近郊。「ちょっと中国に出稼ぎに行こうと思っただけなのに、こんな所まで来てしまった…」。北朝鮮出身の30代女性、李さん=仮名=は独り暮らしの1DKマンションでため息を漏らした。

 北朝鮮北部の両江道で軍人の夫と長女の3人で暮らしていた。比較的余裕のある生活が暗転したのは2012年だった。中朝国境の警備に当たっていた夫が中国へ密入国した労働者に便宜を図った疑いで軍に逮捕された。「釈放するには賄賂がいると言われ、家も家具も全部売るしかなかった」。軍を辞めた夫は酒におぼれ、家計は一気に苦しくなった。

 「中国に出稼ぎに行くけど一緒に行かない?」。15年4月、友人の女性に誘われ、最初は迷った。しかし「2カ月稼いで戻ってくれば大丈夫。朝鮮族経営のレストランだから言葉も通じる」と言われ決意した。

 深夜、山間部で朝鮮族の中国人と待ち合わせし、雨が降る中、国境を流れる豆満江(中国名、図們江)を歩いて渡った。中国側に着くと「すぐに追いつくから先に行ってて」と言う友人を残し、トラックに乗り込んだ。到着したのは黒竜江省ハルビン郊外の集落。「おまえはここで結婚するんだ」。朝鮮族の男に告げられ、初めてだまされたと気付いた。泣きながら抗議したが「国境まで戻るのに7万元(約114万円)かかる。その金があるのか」「ここは中国だ。殺して埋めても誰も分からない」とすごまれた。

 その日の未明、トイレに行くふりをして逃亡を試みた。しかし、外に通じるドアを開けた途端、大きな音が鳴り、追ってきた男に連れ戻された。激しく殴られ「もう結婚するしかないと諦めた」。

「集落全体が見張っている感じだった」
 結婚相手は10歳以上年上の農家の中国人。片目を失明していた。一緒に暮らす男性の両親も朝鮮語は話せず、身ぶり手ぶりで意思疎通するしかなかった。常に監視され、1人で外出すると周辺住民から連絡を受けた夫が追いかけてきた。「集落全体が私を見張っている感じだった」

 夫からは「おまえを買うのに5万2千元払った」と告げられた。自由に遣える金はもちろん、当初は服も満足に与えられなかった。「せめて北朝鮮の家族に送金したい」と訴えても無視され、逆に逃亡を警戒して監視が厳しくなった。集落には同じようにだまされて中国人と結婚した北朝鮮の女性がいたが、自由に会うことは許されなかった。

 密入国した李さんは中国の身分証がなく、病院も受診できなかった。中国人の夫との間に生まれた女児も中国の戸籍がもらえなかった。「中国で暮らしていても私は存在しないのと同じ。将来を考えると不安でいっぱいになった」

 逃げ出すきっかけは夫の友人の結婚式だった。北朝鮮出身の女性と知り合い、通信アプリ「微信」で連絡を取り合おうと誘われた。夫に連絡用のスマートフォンが欲しいと頼んでも相手にされなかったが、子どもが生まれてもう逃げないと判断したのか、夫の母が買ってくれた。

 李さんは微信で北朝鮮出身者のグループチャットに登録。韓国への密入国を手配するブローカーと連絡を取り、脱出計画を練った。逃亡に必要な200万ウォン(約20万円)は韓国の脱北者支援団体が用意してくれた。

 昨年6月、こっそりためていた金でタクシーに乗り、遼寧省瀋陽市まで移動。ブローカーから受け取った偽の身分証で鉄道の切符を買い、約3千キロ離れた中国南部の雲南省昆明市を目指した。その後、現地のブローカーとともにトラックで国境を越え、ラオスとタイを経由して7月に韓国へたどり着いた。

 韓国政府の教育施設で過ごした後、昨年12月に独り暮らしを始めた。気掛かりなのは中国に残してきた3歳の娘だ。スマホの写真を眺めない日はない。「見ていると涙があふれてくる。迎えに行きたいけど中国に行けば捕まるかもしれない。どうしたらいいか分からない」と声を詰まらせる。「北朝鮮で食べていければ、ここまで逃げて来ることはなかった。金正恩(キムジョンウン)(朝鮮労働党委員長)のせいだ」と言葉を絞り出した。

「売られてきた花嫁」中国当局に保護求めることもできず
 李さんの逃亡を支援した韓国の脱北者支援団体「北朝鮮人権市民連合」の金英子(キムヨンジャ)事務局長によると、昨年1年間で中国へ人身売買された北朝鮮の女性や子ども計230人を救出した。1996年以降に救い出した脱北女性らは累計千人超に上るが、あくまでも「氷山の一角」という。

 中国当局は脱北者を見つけた場合、北朝鮮へ強制送還する措置をとっている。送還された脱北者は凄惨(せいさん)な拷問や強制労働が待っているため「売られてきた花嫁」は中国当局に保護を求めることもできず、被害は表に出づらいのが実態だ。

 中国吉林省の農村へ花嫁として売られた咸鏡北道明川(ミョンチョン)出身の崔今淑(チェクムスク)さん(44)は2003年、中国当局に捕まり、北朝鮮の収容施設に送られた。「食事はおかゆだけ。看守の機嫌が悪ければそれも与えられず、1週間水も飲ませてもらえなかった」。看守にレイプされた脱北女性が堕胎した赤ん坊の処理を手伝ったこともあるという。「売られた先の中国での生活は苦しいけど、北朝鮮に送還されるよりずっとましだ」

 それでも中国に売られる脱北女性の話を聞くと「あの頃の自分と重ねて胸が締め付けられる」。韓国で暮らす今、一人でも多くの女性が救出されるよう毎月1万ウォンを脱北者支援団体に寄付しているという。

「一人っ子政策」背景に 男性人口が女性上回る
 「売られる花嫁」は北朝鮮出身者に限らない。中国メディアは1月下旬、河北省〓(〓は「刑」の「りっとう」部分が「おおざと」)台市の男性に売られたベトナム人女性2人が救出されたと報じた。2018年2月には中国当局がベトナムと国境を接する雲南省の集落で33人のベトナム人女性を救出、人身売買組織の78人を逮捕したと発表した。

 ベトナム国営メディアによると、同国内では2011年から17年までの約7年間に子どもも含め人身売買の被害者は6千人近くに上った。被害者の多くは貧困層で山岳地帯に住む少数民族の女性も多いとされる。他にもラオスやミャンマー、モンゴルの国境周辺に住む女性が狙われるなど被害は後を絶たない。

 背景にあるのは中国の男女数の格差だ。人口統計によると、18年末時点で男性が女性を3164万人上回った。1979年から2015年まで続いた「一人っ子政策」の影響で、女児より男児が好まれた結果だ。

 「結婚適齢期」の中国人女性は快適な生活と高所得の男性を求めて都市部に集中するため、農村部は花嫁不足が深刻化。中国人女性を花嫁に迎える準備金より近隣諸国の女性を買い求めた方が割安なこともあり、人身売買が横行している。

 こうした状況について、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(本部・米ニューヨーク)中国担当調査員の王松蓮さんは「中国政府も人身売買の取り締まりに力を入れているが、対応は十分ではない。脱北女性を北朝鮮に強制送還するなど保護の視点に欠けている。拷問が懸念される場合は難民として受け入れるべきだ」と指摘する。

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