今国会は12月9日の会期末まで残り2週間となった。最重要課題である日米貿易協定承認案は参院で審議が続くが、北朝鮮の弾道ミサイル発射や日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の問題など、日本を取り巻く安全保障環境に関しては国会の予算委員会でほとんど取り上げられていない。
安倍晋三首相主催の「桜を見る会」の追及を最優先し、政権との対決姿勢を演出する主要野党の姿勢には疑問符が付く。
スキャンダル追及に集中
「公私混同の極みとしかいいようのない大問題だ」
日米貿易協定承認案が審議入りした20日の参院本会議。立憲民主党の那谷屋正義氏は「質問に先立ち一言申し上げる」と切り出し、首相が桜を見る会に多数の地元関係者を招いたことを批判した。
「首相の言葉を借りれば、今こそ政治家として説明責任を果たすべき時だ」とも迫った。
共産党の紙智子氏も、質疑の冒頭で桜を見る会を取り上げた。那谷屋、紙の両氏はそれぞれの質疑時間の約半分を桜を見る会などの政権追及に費やした。
ただ、この日の主要議題はあくまで日米貿易協定の承認案だ。
22日の参院本会議で、教職員給与特別措置法(給特法)改正案の質疑に臨んだ日本維新の会の梅村みずほ氏は「一昨日の本会議と本日、学級崩壊を連想させる場面に遭遇した。
登壇者の発言中に飛び交うヤジ。議論すべき日米貿易協定や給特法とは全く関係ない、桜を見る会の質疑だ」と皮肉を述べた。
梅村氏の前に質問した立憲民主党の斎藤嘉隆氏は、桜を見る会をめぐり、萩生田光一文部科学相を追及していた。梅村氏は語気を強めながら、こう質問を締めくくった。
「私は国語の時間には国語を、理科の時間には理科を勉強してきた。ここは国権の最高機関だ。ヤジは国会の花ならず。子供に見られて恥ずかしくない姿を良識の府の参院に求める」
「国権の最高機関」をうたうならば、当然ながら国政の課題を議論すべきだ。衆参予算委の審議内容はどうだったか。
首相が出席した予算委は10月10日以降、これまで衆参両院でそれぞれ3日間開かれ、審議時間は衆院で計約18時間20分、参院で計約19時間25分に上る。主なテーマは台風19号を含む災害対策や消費税率引き上げ、日米貿易協定などだった。
立民など主要野党は当初、関西電力役員らの金品受領問題を集中的に追及した。10月下旬からは辞任した2閣僚の公職選挙法違反疑惑▽大学入学共通テストへの英語民間試験の導入見送り▽桜を見る会-と次々に矛先を変えた。
朝鮮半島情勢が緊迫する最中にも…
一方、北朝鮮は国会召集直前の10月2日に新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を、同月31日には2発の弾道ミサイルをそれぞれ発射している。
この段階で日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)は韓国の破棄決定により失効の瀬戸際にあったが、予算委で積極的な安全保障論議が交わされた形跡はない。10月11日の衆院予算委で、国民民主党の前原誠司元外相が日本のミサイル防衛能力をただしたぐらいだ。
中国も尖閣諸島(沖縄県石垣市)周辺海域への侵入を続けている。予算委で、日中関係を「正常な軌道に戻った」と評価する首相に野党が現状を突き付け、来春に習近平国家主席を国賓として迎える妥当性をただす場面はみられなかった。
主要野党は「国民にもう1つの選択肢を常に用意する。緊張感のある政治を作り出す」(国民民主党の玉木雄一郎代表)と意気込むが、現実は厳しい。
桜を見る会がクローズアップされた後の16、17両日に産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が行った合同世論調査によると、立民の政党支持率は7・8%と前回調査(10月19、20両日実施)に比べ0・5ポイント増、共産は1・1ポイント増の3・2%でいずれも微増にとどまった。国民民主は0・5ポイント減の0・8%だった。
桜を見る会や政権の疑惑を徹底追及する主要野党の姿勢は、国民や有権者の支持を得ているとはいえないようだ。
もっとも、国政の重要課題にかかわる実質的な論戦が影を潜めた背景として、政府・与党側に2閣僚の辞任など追及材料を次々と与えた面はある。与党国対幹部は「野党の支持率が上がらない状況に安住してはいけない」と戒める。「国権の最高機関」にふさわしい、真に緊張感のある政策議論を期待したい。