政府が保有を目指す敵基地攻撃能力について、島嶼(とうしょ)防衛用に計画している長射程ミサイルなどで敵ミサイルや施設を攻撃する案を軸に検討を進めていることが9日、分かった。
衛星などで標的を特定し、敵レーダーを無力化して航空優勢を築いた上で戦闘機が爆撃する完結型の「ストライク・パッケージ」を独自保有する案も検討したが、費用対効果などに難点があり見送る。複数の政府関係者が明らかにした。
政府は北朝鮮などを念頭に置いた敵基地攻撃能力として、標的から離れた位置から敵の拠点を打撃する長射程ミサイルを中心に検討を進める。「JASSM(ジャズム)」、極超音速誘導弾などの候補から絞り込む。長射程巡航ミサイル「トマホーク」を米国から購入する案もある。
JASSMなどは平成30年に改定した「防衛計画の大綱」や「中期防衛力整備計画」で調達・研究するとしていた。敵基地攻撃能力ではなく、敵が日本の離島を占拠した場合に奪還するような島嶼防衛用と位置付けていた。
河野太郎防衛相は敵基地攻撃能力について、(1)移動式ミサイル発射装置や地下基地の位置特定(2)敵レーダーや防空システム無力化による航空優勢確保(3)ミサイル発射基地の破壊(4)攻撃効果の評価-などで構成されると説明していた。これらは総体として「ストライク・パッケージ」と呼ばれる。
ただ、移動式発射装置に搭載したミサイルの位置をリアルタイムで特定することは難しいとされる。ストライク・パッケージには戦闘機の大量な追加配備が必要で、敵レーダーを無力化するための電子攻撃機や対レーダー・ミサイルなどの装備取得には多額の予算を要する。
これに対し、長射程ミサイルは比較的低コストで調達可能で、運用次第で期待する抑止効果が確保できる。敵基地攻撃能力の保有に慎重な公明党にとっても、すでに調達・研究が決まっている装備であれば受け入れやすいとみられる。
自民党ミサイル防衛検討チームは「相手領域内でも阻止する能力」の保有検討を政府に求めている。政府は敵基地攻撃能力とは別に、配備計画を断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替策も検討しており、これも含めた方向性を9月末までにまとめ、年末までに国家安全保障戦略の改定を目指す。
北朝鮮、弾道ミサイルは日本照準 ほぼ全土を射程に
【ソウル=名村隆寛】北朝鮮は2005年2月に核保有を宣言。06年10月に初めて強行して以来、17年までに計6回の地下核実験を行っている。保有している核弾頭は少なくとも10~20発とされ、最大60発との推定もある。18年に「核兵器開発は実現した」とし、北東部豊渓里(プンゲリ)の核実験場の坑道を爆破した。
核の運搬手段として、北朝鮮は日本のほぼ全域に届く中距離の「ノドン」を配備しているほか、米領グアムを狙う「ムスダン」など多様な弾道ミサイルを保有している。
17年11月には全米を射程に収める大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星15」の発射実験に成功したと発表。金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が「国家核戦力完成」を宣言した。
北朝鮮は日本と韓国はもちろん、今や米国までを核攻撃の射程範囲に収めている。
それだけでなく、昨年10月には新型潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)「北極星3」型の発射実験をし、日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下させるなどしており、日本はSLBMによる核攻撃の脅威にもさらされている。
金正恩氏は先月27日、朝鮮戦争(1950~53年)の休戦協定締結から67年を迎えた記念日の演説で、北朝鮮が「核保有国」であることを踏まえ、「核抑止力により、わが国家の安全と未来は永遠に堅固に保証される」と主張。「頼もしく効果的な自衛的核抑止力により、この地にもはや戦争という言葉はない」と強調した。
金正恩氏は18年6月の初の米朝首脳会談で、朝鮮半島の完全非核化を盛り込んだ「シンガポール共同声明」に署名した。だが、米朝交渉はその後、停滞と決裂が続いている。昨年12月には「重大な実験」を行ったと発表した。
金正恩氏は米国などの脅威に対する「抑止力」としての核保有であることを強調している。しかし、北朝鮮が核を保有し、日本に照準を合わせた核ミサイルを配備しているのは現実だ。最高指導者の判断一つで、北朝鮮の核が日本にとって単なる脅威ではなく、実際に使用されうる段階に来ている。