中国の全国人民代表大会(全人代)が11日、決定した香港の選挙制度見直しについて、松田康博東京大教授に聞いた。
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今年の全人代は新型コロナウイルス対策が軌道に乗り、経済成長目標も自信を持って発表できた。昨年と比べ政府全体が落ち着いてきた印象を受ける。
その一方、李克強首相の後任選びを念頭に全人代組織法を改正するなど、来年秋の党大会での習近平共産党総書記(国家主席)3選に向け、権力闘争の兆しもみられた。
「愛国者」を立候補の前提条件とする香港の選挙制度見直しは、かつての最高指導者、●(=登におおざと)小平の発言にも合致した予想通りの方向性だ。
香港国家安全維持法(国安法)の執行と併せ、民主派を無力化するのが目的だ。選挙制度は来年までに完成し、香港の自由と民主は完全に奪われるだろう。
台湾問題は今回、香港に精力を割かれ手を付ける余裕がないことが明確になった。今の中国は台湾に武力行使できない一方で、弱腰も見せられない。
中国に跳ね返る経済制裁ができないため、台湾産パイナップルの禁輸で台湾社会を不安に陥れようと試みた。だが、台湾人の反発を買い日本社会などの支援で完全に逆効果となった。
対米関係はバイデン政権の出方をうかがっている段階だ。目下、来年の習氏3選が最重要課題で、不確実性を招く事態は避けたいとの論理で動いている。
だが、特に台湾問題は、経済的抱き込みに失敗したため、軍事的圧力や経済制裁など強圧的手段以外に選択肢がない。3選以降、台湾統一を非平和的手段で図る可能性がある。日米などはそれに備える必要がある。
(聞き手 田中靖人)