
福岡市中央区の西鉄グランドホテルで12日に開かれた九州「正論」懇話会の第149回講演会では、中国内モンゴル自治区オルドス生まれの文化人類学者で、静岡大教授の楊海英(よう・かいえい)氏が「中国の民族問題―南モンゴルとウイグルの実例から」と題して講演した。
中国による民族弾圧の実態を伝え、「中国との経済的な関係を希薄にすることが日本のためになる」と、脱中国依存の重要性を訴えた。主な内容は次の通り。
内モンゴルと新疆(しんきょう)ウイグル自治区の民族問題は、ジェノサイド(民族大量虐殺)だと、十数年前から主張している。
1948年の国連総会でジェノサイドは、集団の殺害▽肉体的、精神的危害を与える▽生活条件を故意に壊す▽女性の出産を妨げる▽強制移住-などと定義している。内モンゴルや新疆で中国が働いた犯罪は国連の定義に合致する。
中国の最大の武器は、人口だ。どこに対しても人口を「輸出」して現地の先住民との人口を逆転し、政治や文化を改変、破壊していく。日本でも特定の地域に中国人が大挙して来ているが、同様の危険があると危惧している。
日本への恨み発散モンゴル人に対し、なぜ中国は大虐殺を行ったかというと、一種の対日歴史の清算だ。日本に対する恨みをモンゴル人に向かって発散している。
モンゴル人と日本人は1945年まで非常に仲がよく、モンゴル人は日本の力で中国から独立したかった。満州国のモンゴル人地域では、335の学校があり、日本の教育を受けて育ったモンゴル人に対し、中国は嫌悪感を示した。
中国からすると、モンゴル人は遊牧民で野蛮人で、自分たちより遅れている連中だと思っていたが、1950年代に中国が内モンゴルを占領して内モンゴル自治区を作ると、モンゴル人の方が学歴が高かった。ほとんどのモンゴル人は学校に通い、日本語や中国語もできる。大学までいけばロシア語もできる。
モンゴル人が近代化し、洗練した行動をとっていると、一種の嫉妬心が沸き上がった。自分たちが敵視する日本やモンゴル人が自分たちより洗練していると気づき、殺戮(さつりく)に入った。これはジェノサイドが発動される心理の一つだ。
砂を混ぜる内モンゴルでは、1967年から大量虐殺がスタートした。中国の公式発表だと、約150万人のモンゴル人のうち34万人が逮捕され、2万7千人が殺害された。モンゴルの人々には共通して、一方的に中国政府と中国人から暴力をふるわれ、殺害された記憶が残っている。
モンゴル語を話すことを禁止し、辺境に住む反革命分子を内地へ輸送せよという命令も出した。強制移住があり、性犯罪もあった。これが1966~76年のジェノサイドの実態だ。
新疆ウイグル自治区では1949年ごろ、漢民族は28万人しかいなかったが、今は1000万人を超えている。新疆を制圧するため、内モンゴルと同じように「砂を混ぜる政策」を取った。つまり、大量に漢民族を移住させ、現地との人口を逆転する。砂を混ぜられて逆転されたときには抵抗しても意味がなくなる。
国連によるジェノサイドの定義にあった犯罪を、中国はしている。ウイグル人を大量に捕まえ、集団裁判にかけ、処刑した。目隠しして強制移住をさせられたり、女性が漢民族と強制的に結婚させられている。
中国のデータを使って分析すれば、その実態が現れる。米国の研究者や、オーストラリアの研究所の報告書によると、中国の人口統計を使って分析したところ、ウイグル人の人口増加が不自然であると。女性の出産がコントロールされ、ある年は突然、百万人近いウイグル人が消えている。決して1人、2人の活動家の大げさな証言ではない。
中国の人権問題に日本も対処すべきだ。例えば日本企業が、問題のある地域の材料を使わないことも対処の一つ。中国との経済的な関係を希薄にすることは、長期的には日本のためになる。部分的にいくつかの地域に砂を混ぜられているので、それにも目を光らせなければならない。
日本は戦後、中国を侵略したという贖罪(しょくざい)意識が強く植えこまれているが、戦後70年以上たち、世界の民主主義の模範たる国になった。贖罪意識に束縛される必要はない。来年、北京五輪が開催されようとしているが、こんな国が開催していいのかということも、声をあげてほしい。