同性愛者など性的少数者(LGBTなど)への理解増進を図る埼玉県の条例案が、県議会定例会最終日の7日に採決され可決・成立の見通しとなっている。
差別や偏見をなくすのは当然だが、逆に女性の権利侵害につながりかねないなどの懸念は解消されていない。問題の多い条例であり、再考を求めたい。
埼玉県議会で採決されるのは「性の多様性を尊重した社会づくり条例」だ。条文では「性的指向または性自認を理由とする不当な差別的取り扱いをしてはならない」などと定めている。県は同性愛者などのカップルを対象とした「パートナーシップ」制度の整備など、必要な施策を講じる。事業者にも性の多様性に配慮した取り組みを促す。
県議会最大会派の自民党議員団が条例案を提出し、一部の議員などが条例制定に反対や慎重論を唱えていた。何が「不当な差別」にあたるのかなどが不明確だからだ。条例案提出に向けて自民党県連が行った意見公募では、寄せられた4700件余りの意見のうち反対が86・8%を占めた。
昨年、自民党が同趣旨の法案の国会提出を目指したが、慎重・反対論が強く、見送られた経緯がある。県民の意見公募でも反対が多い中で、なぜ条例制定を急ぐのか理解に苦しむ。
医学的知見から、心と体の性が一致しない性同一性障害については平成16年に特例法が施行され、複数の医師の診断など一定の条件で戸籍上の性別を変更することなどを認めている。
一方、主観的で曖昧なかたちで「性自認」が導入されれば、男性が女性と「自認」し、女子トイレや女湯に入った場合の混乱などが予想され、不安も少なくない。
オウム真理教の被害者対策で知られる滝本太郎弁護士は本紙のインタビューで「性別は自分で決めることができるという性自認の論理は問題がある」と訴え、「女性の権利を無視し、安全・安心を脅かしている」と指摘する。
条例案の目的は「男女という二つの枠組みではなく連続的かつ多様である性の在り方の尊重」とするが、いかにも分かりにくい。
男女の性別をなくせば差別、偏見がなくなるわけでもなかろう。行き過ぎたジェンダーフリー(性差否定)では逆に反発や分断をあおりかねない。