8日に死去した英国のエリザベス女王は昭和50年5月、英国国王として初めて日本の地を踏んだ。96年の生涯で唯一の機会となった日本訪問。
女王は6日間の日程を終えて帰国する直前、接遇担当者から印象深かったことを問われ、昭和天皇から「教え」を受けたことを打ち明けていた。
内容は明かさなかったが、女王は「地球を半周」して「報われました」と、訪日の成果を実感した様子だったという。
昭和天皇実録などによると、女王は夫のフィリップ殿下とともに5月7日に来日。昭和天皇と后(きさき)の香淳皇后に迎えられ、夜には上皇ご夫妻をはじめとする皇族方も同席された宮中晩餐(ばんさん)会に出席した。
行く先々で歓迎を受けた女王夫妻は横浜市の英連邦戦死者墓地参拝などの後、10日に京都へ出発。京都市の寺院や伊勢神宮(三重県伊勢市)などを回り、12日に日本を離れた。
訪日中のできごとについて、接遇を担当する外務省儀典長として間近で見聞きしていた内田宏氏が女王の発言などもあわせて記録。一部を扶桑社の季刊誌「皇室」に寄せていた。
記録によると、三重の視察を終えて帰京する際、内田氏が「最もご印象の深かったのは」と尋ねると、女王は「陛下(昭和天皇)にお目にかかり、教えを受けたことです」と即答。「女王は孤独なもの」「重大な決定を下すのは自分しかいない」。
内田氏にそう打ち明けた女王は「この立場が分かっていただけるのは、ご在位50年の天皇陛下しかおられません」と説明し、「自分が教えを受けられるのはこの方しかない」との気持ちで訪日したことを明かした。
昭和天皇も英国国王から教えを受けた経験があった。昭和天皇実録では昭和54年、記者団から大正10年の訪欧について問われた昭和天皇が、「当時の英国国王ジョージ五世から立憲政治のあり方について聞いたことが終生の考えの根本にある旨を述べられる」と記されている。
「陛下のひとこと一言に、私は多くの、そして深いものを感じました。感謝で一杯です」。女王は最後、内田氏にそう述べた。ある宮内庁幹部は「近しいお立場同士だからこそ通じる、分かり合える部分がおありだったのではないか」と推し量った。(橋本昌宗)