LGBTなど性的少数者への理解増進を図る法案を巡り、女性の権利保護を目指す「女性スペースを守る会」の滝本太郎弁護士が産経新聞の取材に応じ、性犯罪目的の男が悪用する懸念などを訴えた。
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理解増進法は理念法なので直接的な強制力はないが、他の法律を解釈する上で影響を与える。トランスジェンダー女性(生まれつきの性別は男性、性自認は女性)のトイレや更衣室など「女性専用スペース」の利用に関し「女性として遇しなければ、差別になる」との趣旨と読めるため、もちろん訴訟に活用される。
性犯罪目的の男が女性専用スペースに入りやすくなってしまうことが懸念される。女性のふりではなく、トランス女性のふりで足りる恐れがある。通報しにくくなったり、警察も及び腰になったりしかねない。
自民党で新たな修正案が示されたというが、「性同一性」に置き換えれば、安心できるという話ではない。「性同一性」も「性自認」も、ともに「gender identity」の訳語だからだ。
理解増進法案を推進するならば、トランス女性を女性専用スペースでも「女性として遇せよ」という趣旨ではないとの解釈規定を法案に入れるか、法案とは別に女性専用スペースに関する法律をつくるべきだ。女子トイレの中では女性・女児こそが、トランス女性よりも弱い立場にあるという事実を忘れてはならない。
英国は学校の女性専用トイレを無くしていたが、昨年から再び作るようになった。女性に性的暴行を働いた男が、トランスジェンダー女性であることを訴え、女性刑務所に収容されるなど多くの混乱を招いたからだ。先行する諸外国の法制度と運用実態を調査すべきだ。
イギリスが「トイレは男女別」を義務付けた理由活発化するトランスジェンダーをめぐる議論

東京・新宿の「東急歌舞伎町タワー」の性別に関係なく利用できる「ジェンダーレストイレ」に対して、「女性が使いにくい」などの批判の声が上がっている。同施設は「SDGsの理念でもある『誰一人取り残さない』ことに配慮し、新宿歌舞伎町の多様性を認容する街づくりから、設置導入した」と理解を求めているが、性犯罪を懸念する向きや「いったい誰のためのトイレなのか」と批判は収まっていない。
一方、イギリスでは、2022年7月に政府が「新しく建設する公的建造物は男女別のトイレを設けることを義務付ける」と発表した。ジェンダーの議論では日本の先をいくイギリスが義務化に動いたのはなぜなのか。
「女性が安心できることは重要」
「トイレは男女別」と義務付けられているのは、人口の5分の4が住むイングランド地方。BBCによると、ケミ・バデノック女性・平等担当相は、義務化について「女性が安心できることは重要」「女性のニーズは尊重されるべき」と説明。さらに政府は「ジェンダーニュートラル(性的に中立)なトイレ」が増えることについて「女性が不利益を被る」と考える人がいるほか、トイレを待つ列が長くなることも理由に挙げている。
ニュートラルなトイレの場合、男性は個室と壁面に取り付けられた小便器を使うことができるが、女性が使えるのは個室のみ。「小便器の横を通らないと個室に行けないのが嫌だと感じている女性は少なくない」と女性団体が抗議したほか、生理や妊娠中など女性特有のニーズがあるため、政府は女性専用のトイレの確保を重要視した。
ガーディアン紙によると、同案は2021年5月に提案されたが、トランスジェンダーやノンバイナリージェンダー(自身の性自認が男女どちらにも当てはまらない、あるいは、当てはめたくない人)の人々の選択肢がなくなるとの批判が噴出。人権団体は、「トイレが男用と女用だけになってしまうと、どちらにも行けない人が出てきてしまう」と懸念を示した。
実際、男女のトイレのほかに、「ニュートラルなトイレ」も同時に義務付けて設置しないと、トランスの人の行き場所がなくなってしまいそうだ。