与野党は6日、LGBTなど性的少数者への理解増進を図る法案を巡り、9日の衆院内閣委員会で与野党の3案を審議入りさせる方針で合意した。自民党は与党案を即日採決する構え。
与党案などが明記する「不当な差別」は対象が明確でなく、差別の解釈が恣意(しい)的に拡大される恐れなどが指摘されている。
衆院内閣委は7日に理事懇談会を開き、日程を正式決定する。法案は▽与党案▽立憲民主、共産、社民の3党案▽日本維新の会と国民民主党案─が提出されている。
9日の同委で3案を一括審議し、同日の採決で与党案が賛成多数で可決される見通し。与党は13日の衆院本会議で可決し、参院に送付する構えだが、自民内には慎重・反対論も根強く、造反者が出る可能性もある。
与党案は「性同一性を理由とする不当な差別はあってならない」と明記した。令和3年に超党派議連がまとめた法案は「性自認を理由とする差別は許されない」としたが、「性自認」は主観的だとして、医学的知見で定める性同一性障害者を指すと読める「性同一性」を採用。「差別」に関する表現もやわらげた。
立民などは与党案に反発し、議連案を提出した。維新などは与党案をベースに「性同一性」「性自認」の英訳である「ジェンダーアイデンティティー」に改めた。「全ての国民が安心して生活できるよう留意」との条文を新設し、女性の権利侵害に対する懸念に対応した。
また、与党は地方自治体がLGBTに関する条例を制定する際の指針となるガイドラインを策定する方針だ。自民の保守系ベテランは「急進的な条例が地方で制定されるのを抑止する狙いがある。LGBT活動家団体に利権が集中しないように成立後も運営面で目を光らせる」と語る。
一方、自民内には法案が学校に対し、LGBTの教育や啓発に努めるよう明記したことについて「性教育すら十分にできていない」と反発する意見がある。トランスジェンダー女性(生まれつきの性別は男性、性自認は女性)によるトイレや更衣室など女性専用スペースの利用に道を開き、結果として女性に不安を与えてしまうとの懸念も根強い。
自民政調幹部は「懸念については国会審議で明確にしたい」と強調したが、限られた時間の審議で解消する保証はない。党中堅は「LGBT活動家に中身は不十分だと批判される一方で、党の岩盤支持層の離反を招きかねない法案だ」と話した。(奥原慎平)