世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」をめぐり、10日に開幕した国連教育科学文化機関(ユネスコ)世界遺産委員会が、戦時徴用された朝鮮人労働者の説明などで日本が「追加的対応をとった」と明記した決議を採択する見通しとなった。
同委員会は2021年、韓国の主張を受けて日本の対応に不満を示したが、今回の決議案は、日本の努力を前向きに認める内容になっている。
今年の世界遺産委はサウジアラビアで開催。「産業革命遺産」の保全状況が審査される。
委員会に提出される審査報告は、産業革命遺産を説明する「産業遺産情報センター」(東京都)などで、QRコードを通じて来訪者が日韓双方の主張を知ることができる仕組みができたと説明。
端島炭坑(通称・軍艦島)の事故記録では、朝鮮人労働者を含む犠牲者について情報収集が進んでいることにも触れた。決議案は報告を踏まえ、日本が21年の世界遺産委決議を受けて対応をとったと認め、韓国と対話を続けるよう促している。
21年の決議は、日本の措置は不十分として「強い遺憾」を表明。「意思に反して連れてこられ、厳しい環境で働かされた朝鮮半島出身者がいたこと」や、日本の徴用政策について理解できる措置をとるよう求めていた。
日本は昨年11月、ユネスコに対し、徴用は当時の日本国民を対象としたもので、朝鮮半島出身者への差別的対応はなかったとする立場を改めて示し、客観的事実に基づく研究を続ける方針を伝えた。先月にはエルンドゥ・アソモ世界遺産センター所長を産業遺産情報センター視察に招き、外交攻勢で韓国に巻き返しを狙った。政府関係者は、「日本の努力を直接伝え、判断してもらうよう努力した」としている。
産業革命遺産が15年、世界遺産に登録された際、韓国は軍艦島などで「強制労働があった」として反発。日本が歴史を伝える施設として20年に「産業遺産情報センター」を開設した際も、韓国は徴用工をめぐる展示を問題視していた。
今回の世界遺産委で、産業革命遺産の保全審査は14~16日に行われる予定。日本は21委員国の一つとして参加するが、韓国は現在メンバーに入っていない。(三井美奈)
世界遺産委員会
世界遺産条約締約国のうち、選出された21カ国で構成。毎年1回定期会合を行い、各国の推薦に基づいて世界遺産の登録リストを作成。今年は、サウジアラビアが議長国を務める。