幼児の視点から「父と母」を見れば

男と女の物語　（第九話）　幼児の視点から「父と母」を見れば

産むことと育てること

　「子供を産むのは女」・・・どんなへそ曲がりでもこれに異論を唱えるものはいない。ところが「子供を育てるのも女」というと、途端に女性陣から猛烈な抗議を受けることになる。女ばかりがこの大変な仕事をやるのは男女平等に反する、不公平であると言うのが理由である。

誤解のもとは「子供」の定義がはっきりしないところにある。ここで論じられるべき「子供」とは2～3歳くらいまでの幼児をさすものと考えるべきである。言い換えると誰か大人の手を借りないと何も出来ない、生きてゆけない存在が「子供」であると定義すれば抗議もかなり沈静化するのではないか。

この時期の幼児は、自我が未発達で、自分と母親が一体化しており見分けが付かない。そしてこの時期、子供の脳は爆発的に成長していく。その成長に必要な情報・刺激は母親を通して得られるのが自然なのである。

絶えず母親と肌を接し、母親から愛情溢れる言葉をかけられ、乳を与えられ、背中に背負われていると母親と同じ目線で外界を見ることになる。外からの情報に母親がどのように対応するのか、子供は母親の背中から見ていて学習するのである。

育児は男女共同で、男と女で公平に、二分の一ずつやるべしという理想論に対して子供は何と言うであろうか。

もし子供が意見をいえるとすれば、お母さんと一緒がいいというに違いない。この時期の子供は子宮の延長とも言える母親の背中や腕の中にいるのが最も心が安らぐのである。それが脳の成長にもプラスとなり、子供の成長にとってもっとも自然なことなのである。

親は自分の都合でなく物言わぬわが子の気持ちになって子供にとって最も大切な時期に適切な環境を準備することが大切なことである。

ネオティニーの意味するもの　

人間はトラや熊のように鋭い牙や爪を持たず力も弱い。豹やチーターのように足も速くない。それにもかかわらず、人間は脳を発達させることにより、よく考え、道具を使い、言語により仲間と協力して地球の支配者になったのである。

脳が大きくなったため、胎児が成熟してからの出産では母体がもたない。そこで子供を未成熟のままで産み、育てる戦略を採用したのである。従って生まれたままの子供は一人では何も出来ない状態で、ある時期まで大人がかかりっきりになるのである。

さらにこの幼児期間が高等生物になるほど長いといわれている。ネオティニーと言う言葉がある。広辞苑を引くと「幼形成熟」と出ている。幼児の形のまま、なかなか大人にならないという意味で、環境に対応して進化していくため幼児期を長くし、この間に脳を成熟させていく戦略なのであろう。

この期間に充分脳を成長させるとより進んだ人間になれる。しかしこの間に適当な躾、教育がなされないと幼児のままのような大人になるということになる。3歳児までは母親が愛情豊かに接してやり、自我の発達に応じて逐次父親が子供に関わって子供に秩序や社会との関わり方を教えていく必要がある。

これが父性と母性といわれるものである。なかでも最も基本となる人格の核になるものは、3歳までの母親との係わりの中で形成される。札幌の小児科医、田下博士によると、最も大切なのは人間関係の基本となる絶対信頼感が母親との係わり合いの中で造れるか否かだという。

人格の核の中に絶対信頼感があれば、その後の人生において人が信じられないような嫌な経験をしても人間不信にはならない。そのような人が結局は周囲の人からも信頼され、良い人間関係を築くことができるという。

幼児にとって母親の存在は如何に大きなものか、そして母親がこの大事な時期に子供にどのように関わるかで、子供のその後の人生に大きな影響を与える事を父親も母親も認めるべきではないか。さらに日本人はネオティニーの傾向が特に強いといわれており、幼児の躾・教育、特に母親の子供への関わりかたが他の民族以上重要だといわれている。　　　　

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