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「併合」に煮え切らない中国の身勝手な理屈

【宮家邦彦のWorld Watch】「併合」に煮え切らない中国の身勝手な理屈 
産経新聞 2014.3.27

 おかげさまで最近は海外出張よりも国内出張の方が多くなった。外務省時代には考えられなかったことだ。日本には素晴らしい市町村がたくさんある。改めてすごい国なんだと実感した。

 初めて訪れる街も少なくないが、佐世保(長崎県)は日米安保・地位協定を担当していた頃、何度もお邪魔した。ここには海上自衛隊と米海軍の基地があるが、日米同盟に対する市民の理解は日本一かもしれない。

 先週ロシアはクリミア編入手続きを正式に完了し、欧州大陸の戦略環境は激変した。佐世保には17日に入ったが、その前日にはクリミアで住民投票があり、ロシア編入案が圧倒的多数で支持された。

宮家邦彦-1
さらに、前々日の15日には国連安保理で住民投票を無効とする決議案がロシアの拒否権で否決された。従来ならロシアに同調する中国はなぜか今回棄権している。その理由を長崎でずっと考えていた。

 筆者の見立ては、中国にとって苦渋の選択だったはず、ということだ。

「全ての国の主権と領土的統一を尊重すべし」というのが中国の公式見解。されば決議案に賛成するはずだが、中国は賛成できない。

賛成すれば、中国は「力による現状変更は認めない」との欧米の主張に同調することになるからだ。

西と東、陸と海とで状況は異なるが、中国が南シナ海・東シナ海で試みているのはロシアと同じ「力による現状変更」に他ならない。決議案に賛成すれば論理矛盾に陥ることを中国自身が理解しているのだろう。

それではロシアと同様、拒否権を発動すればよいのかというと、必ずしもそうではない。ロシアに同調すれば中国はロシアが主張するクリミアのロシア系住民の「民族自決権」を認めることにもなるからだ。

国内少数民族の民族自決権を根拠とする外国からの軍事干渉を容認すればウイグル、チベットなど中国国内の少数民族問題に及ぼす影響は甚大だ。中国側の主たる懸念はここにあったに違いない。

 中国は欧米の「ダブルスタンダード」と「力の空白を利用した内政干渉」をも批判するが、中国に言われる筋合いはない。ベトナム戦争当時、中国はベトナムの民族自決を支持したではないか。

ウイグルとチベットにおける力の空白を利用して両地域を編入したのは中国ではないか。ここでも中国の主張には根拠がない。今回は棄権して沈黙を守り、欧州情勢の行方を見極めたいということだろうか。

 前回のコラムでは「クリミアは日本にとって対岸の火事どころか、欧州・中東・東アジアの将来を左右する戦略的問題」と書いた。改めてこのことを佐世保で考えると、この港町が東アジアでの「力による現状変更」という潜在的脅威の最前線の一つであることが見えてきた。

その象徴が日米海軍基地であることは間違いない。だが、佐世保にはもう一つ重要な部隊がある。それが「セイフレン」だ。

正確には「西普連」、陸上自衛隊の「西部方面普通科連隊」である。西普連は今まで筆者が見たどの部隊とも異なる特徴を持っている。それは一種の突然変異、すなわち「陸上生物」が突然水陸両用の「両生類」となることを求められているからだ。

主要任務は島嶼(とうしょ)防衛。両生類化が始まって既に12年、隊員に課される訓練は半端ではない。重装備のまま泳ぐことはもちろん、隠密裏の水路潜入など、これまでの陸上自衛隊とは全く別の技能を日夜磨いているらしい。

 相浦(あいのうら)駐屯地内ですれ違った若い隊員たちの顔は、お世辞抜きで、どれも輝いていた。厳しい訓練を耐え抜いた自信と矜持(きょうじ)に満ちていた。

これと同じ強者たちを米国バージニア州の海兵隊基地で見たことがある。関係者によれば、米国との違いは歴史と装備だけだそうだ。こんな精鋭部隊を拡充することも日本が「力による現状変更」を抑止する鍵の一つである。



【プロフィル】宮家邦彦 みやけ・くにひこ 昭和28(1953)年、神奈川県出身。栄光学園高、東京大学法学部卒。53年外務省入省。中東1課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを歴任し、平成17年退官。第1次安倍内閣では首相公邸連絡調整官を務めた。現在、立命館大学客員教授、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。
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