自発的改憲求めるマ元帥 「国際法に違反」との批判を恐れた

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自発的改憲求めるマ元帥 「国際法に違反」との批判を恐れた2014.8.31 11:30 [子供たちに伝えたい日本人の近現代史]

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戦後日本に権力をふるったGHQが入る第一生命相互ビル。「日本改造」の一環として憲法改正を「指示」した=昭和26年、東京・日比谷

 近衛文麿もまた、戦勝国による恣意(しい)的であいまいな「戦犯」認定に翻弄された一人だった。

 戦前3次にわたって組閣、支那事変(日中戦争)発生後「国民政府を対手(相手)とせず」の声明で事態を泥沼化させた。いわゆる「南進」政策を決めたときの首相でもあった。

 だが昭和20(1945)年9月11日、逮捕状発令が始まった「戦犯」の中には含まれなかった。それどころか、東久邇宮稔彦王内閣の国務相だった10月4日には連合国軍最高司令官、ダグラス・マッカーサー元帥から憲法改正を「勧告」される。GHQ(連合国軍総司令部)に近衛を呼んだマッカーサーはこう語ったとされる。

 「世界ノ事情ニモ通ジテ居ラレル。…若(も)シ公ガ其ノ廻リニ自由主義的分子ヲ糾合(きゅうごう)シテ憲法改正ニ関スル提案ヲ天下ニ公表セラルルナラバ議会モ之ニ蹤イテ来ルコトト思フ」(江藤淳氏『一九四六憲法-その拘束』)。「公」とは公爵・近衛のことである。
「あなたが憲法改正を提案すれば、議会もついてくる」というのだ。ここまで言われ近衛は「マッカーサーは新しい日本のかじ取りを自分に任せるつもりだ」と心を躍らせたに違いない。

 翌5日の内閣総辞職で国務相は辞めたものの、昭和天皇の命で内大臣府御用掛という職に就き、元京大教授の憲法学者、佐々木惣一を招き新憲法の草案づくりに着手した。

 ところがその草案づくりは1カ月もたたない11月1日に出されたGHQの声明で暗転する。「東久邇宮内閣が総辞職したため、近衛公は憲法改正作業と何の関係もない」というものだった。

 これは『一九四六憲法』が書くとおり「真赤な嘘」だった。なぜなら内閣総辞職後も、近衛がこの件でGHQ政治顧問、アチソンらと接触することをマッカーサーが認めていたからだ。

 実はマッカーサーは10月11日、新たな内閣を組織した幣原喜重郎に対しても「日本国民が数世紀にわたり隷属させられた伝統的社会秩序は是正されなければならない。それには憲法の自由主義化も含まれる」との「意見」を伝えている。つまり体よく近衛から幣原に乗り換えたのだ。

この時期、米国内に近衛を戦犯として処すべきだとの世論が高まり、それを気にしたマッカーサーが切り捨てたものと見られている。事実、12月6日には近衛への逮捕状が発令され、近衛は出頭前日の12月16日夜、服毒自殺した。憤死といってよかった。

 それにしてもマッカーサーの改憲への姿勢は、他の「日本改造」に比べ慎重に見える。それはGHQの手で日本の憲法を変えることは、ハーグ陸戦法規という国際法に違反するという批判が当時からあったからである。

 1907年改正された陸戦法規の第43条は、戦争後の占領者は絶対的支障がない限り占領地の現行法律を尊重しなければならないとし、敗戦国の体制変更に否定的だ。これを知っていたマッカーサーは「指示」の印象を薄め、日本の政界に影響力のある近衛や幣原を選んで「自発的」に改正させようとしたのだ。

 とはいえ、日本側はこれを「指示」と受け止めた。元々憲法改正に否定的だった幣原首相は10月13日、法学者で弁護士出身の松本烝治国務相を委員長とする調査委員会を発足させた。

委員会では、顧問として迎えた憲法学者で戦前「天皇機関説」で論議を招いた美濃部達吉が「現憲法下でも法令の改正及びその運用により、民主主義化を実現することは十分可能だ」と述べるなど、改正反対論も強かった。

 このため当初は改正が必要かどうかなどを「調査」するにとどまっていたが、GHQ側からの督促もあり改正案の作成を急ぐ。

 しかし翌21年になって、その草案が連合国の意向にそぐわないものであることが明らかになると、マッカーサー司令部は一転して、日本側に対し「牙」をむくことになる。(皿木喜久)

                   




【用語解説】幣原喜重郎内閣

 鈴木貫太郎内閣の後を受け20年8月17日発足した東久邇宮稔彦王内閣は政治犯の即時釈放、思想警察の廃止などを強く求めるGHQの圧力に屈し10月5日、総辞職に追い込まれた。

 こうした事情から木戸幸一内大臣らは後任の首相に元外相で親英米派として知られた幣原を推すことを決めた。幣原は政界の第一線を退いて十数年がたっていたが、木戸らとしてはGHQの要求をさばきながら国体を守ることを期待したのだ。しかしGHQ側は幣原の保守的な面も見抜いており組閣後、憲法改正をはじめ矢継ぎ早に「改革」を求めてくる。

                   




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